「発展途上国」で見た最先端工場

興味深いのはサラリーマン時代(2000~2008年)だ。実質的に有給休暇なしで一年中仕事に没頭していたのだ。

水産物商社の中央魚類でキャリアをスタート。エビの買い付け担当として東南アジア各国を飛び回るうちに、水産業のダイナミズムに魅せられた。

とりわけ印象的だったのはインドネシアのエビ工場だ。学校の授業で教わった「貧しい発展途上国」というイメージとは大違い。片田舎にある工場がグローバルで最先端。そこに世界中からバイヤーが押し寄せていた。

インドネシアのエビ加工工場にて
写真提供=鈴木隆
インドネシアのエビ加工工場にて

成約単位も50~100コンテナでスケールが違った。バイヤーの中にはウォルマートやカルフールが含まれていたためだ。小売りチェーンとして前者はアメリカ最大、後者はフランス最大だ。

20代の日本人商社マンは中央魚類を代表して工場の社長に会うと、次のように言われたという。

「遠い日本からわざわざ来てくれたから、こんなことは言いたくないのだけれども、これからあなたと商談するのは時間の無駄。どうせ1コンテナしか買ってもらえないのですから」

ここでにわかに知的好奇心が湧いてきた。インドネシアの工場では「欧米向けはこんなに売れる」と言われたけれども、本当なのか? 世界のマーケットが巨大だとしたら、自分の仕事はどう位置付けられるのか?

有給休暇に自腹の視察旅行を繰り返す

思い立ったが吉日。夏休みや冬休みにまとまった有給休暇を取れるたびに、欧米へ視察旅行に出掛けるようになった。

例えばニューヨーク。1週間くらいかけて市内の魚市場やシーフード店を訪ね回った。チャイナタウンでは東南アジア産のエビが山ほど積まれ、1キロ単位で売られているのを見て目を丸くした。

「格安航空券には助けられました。当時は安かったですからね。燃油サーチャージも入れてニューヨークまで往復7万~8万円。結婚していなかったし、荷物も少なくて気軽でした」

せっかく取得した有給休暇を、観光ではなく事実上の仕事に使っていたということだ。ニューヨークではブロードウェイやジャズクラブには目もくれずに。

格安航空券とはいっても自腹。休暇中に仕事をしていて、損した気持ちにならなかったのか? 休みなしで一年中働き続けていたら、消耗してしまうのではないのか?

「全然そんなことないです。好奇心を満たすために自分の好きなことをやっていただけです」

好きなことをやっているのであれば、四六時中仕事していても苦にならないというわけだ。ジョブズが言うように。