離島の荒れ果てた塩田跡に一目ぼれ

正解だった。たまたま江戸時代の塩田跡に巡り合い、フランスのカキ養殖池をイメージできたのだ。一目ぼれだった。

「廃屋が放置され、ぼろぼろのビニールハウスが建っているだけ──そんな土地だったんですけれどもね」

フランス語で「クレール」と呼ばれる塩田跡の養殖池。海と違って水深が浅く、太陽光をたっぷり浴びる。そのため、餌となる植物プランクトンが光合成してよく繁殖し、おいしいカキが育つ。

つまり、生食用カキの最高峰を育てるための舞台としては理想的なのである。

手前の中間育成機「フラプシー」で育てた稚貝を、奥の養殖池でさらに大きく育てる
撮影=プレジデントオンライン編集部
手前の中間育成機「フラプシー」で育てた稚貝を、奥の養殖池でさらに大きく育てる

30代半ばの起業家が必要としていたのはまさにこれだった。4年後の2015年にファームスズキが誕生し、日本で唯一のクレールオイスターを生産するようになる。

ハワイに移住してもカキ養殖?

独立後の34歳で結婚して、3人の子どもがいる。

会社ロゴをデザインした元ウェブデザイナーの妻からは「55歳までに養殖池を誰かに売ってほしい。かわいい子どもたちに継がせるのは難しいから」と冗談交じりに言われるという。

会社ロゴが大きくプリントされた本社オフィス
撮影=プレジデントオンライン編集部
会社ロゴが大きくプリントされた本社オフィス

「55歳でハワイに移住してもいいかなとも思っています。ちょっと本気で。子どもたちも親元から離れて独立しているだろうから」

ハワイで毎日ビーチに行って、悠々自適に暮らすのか? 違う。現地でカキ養殖を始めるのだ。

現在48歳の鈴木社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
現在48歳の鈴木社長

ファームスズキ社長にとって好きなことは海・川・池であり、そこから生まれる生き物だ。魚釣りにはまっていた小学生時代から一貫している。

好きなことを見つけ、それを生涯の仕事にする──。これが起業家を成功に導くカギなのかもしれない。(文中敬称略)

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