「5分の出来事を200字で書く」でメタ視点を身につける
【鳥羽】ちなみに古賀さんのメタ視点は、子どもの頃から備わっていましたか。
【古賀】大人になって、仕事で文章を書くようになってからですね。20代前半までは客観視ができていなかったです。だからその頃のことを書こうとすると、出来事に対してメタ的な距離が取れてなくて、やや感情的な文章になるきらいがあります。訓練しないと克服できないのかもしれない。
【鳥羽】逆に言えば、訓練さえすれば、ある程度はメタ認知を会得できるということでもある。それは希望ですね。もちろん古賀さんほど熟達するには、相当な鍛錬が必要でしょうが。
【古賀】やっぱり日記がいいトレーニングになったなと思います。日記は観察文学なので。
【鳥羽】なるほど。そういえば古賀さんは武田百合子の『富士日記』がお好きだと言っていますが、あの作品の描写もかなりメタ化されてますね。良質な日記文学を読んできた経験も生きてるのかな。
【古賀】『富士日記』は本当に好きで何度も読み返しました。あの本に、日記観を規定された部分はあります。武田百合子も、あった出来事を徹底的にそのまま書く。
【鳥羽】「5分の出来事を200字で書こう」のように具体的なアドバイスもされていますね。
【古賀】1日のすべてを高濃度で書くなんていきなりできることじゃないから、フォーカスをしぼって、一瞬の出来事を描写するというのは訓練になります。印象的だったことだけをつぶさに観察して書くのは、ラクだから書き続けられますし。
1日5分でも子どもを集中して見ればわかることがある
【鳥羽】ちょっと広げて考えてみると、「子どもを見る」ときも、すべてを見ようとしなくていいってことですよね。1日5分だけでも集中して見れば、わかることはいっぱいある。子どもの一挙手一投足を見逃さないなんて不可能だし、そんなことをされたら子どもだって窮屈でしょうがない。
【古賀】私は自宅で仕事をすることも多いので、集中していると子どもたちがわあわあ話をしてきても、内容が全然頭に入ってこないんですね。生返事をして、ハッと気づくと娘はソファでマンガを読んでいたというように。でも、「もう一度聞かせて」と頼むと快く話してくれます。子どもたちのほうが私の性質を理解して、付き合ってくれている。
【鳥羽】付き合ってくれる関係というのはいいですね。まさに現場で関係性が生まれる話で、先の政治の話ともつながります。親と子は、もう少しちゃんと政治をしたほうがいい。子どもを正しく育てるためには、親の継続した真面目さが必要と考える人も多いのですが、それがむしろ子どもの自由な発達を妨げることになりかねない。親はもっと適当でよくて、子どもだって親は自分勝手に生きてる一人の人間なんだと体得することで、子どもも自分勝手に生きられるようになるんです。最近は「寄り添う」が大事だと言われますけど、寄り添いは距離が近すぎて息が詰まることでもあるわけで。