年齢や職場でのポジションが変われば、学び方も変わる。自身でキャリアを切り拓いてきた3人に、行動につながる学習の秘訣を聞く。
未経験の仕事で成果を残す
【辻野晃一郎】私はソニーに計22年間在籍していたので、社会人人生の大半を過ごしたことになるが、収益が安定した事業を守るといった立場にいたことがない。不採算事業の立て直しや、新規事業の立ち上げなどにいつも駆り出され、常時戦場という意識だった。
一番面食らったのはVAIOのデスクトップパソコンの事業責任者になったときだ。それまで、私はずっと開発畑を歩み、事業部経験はおろか、ビジネスに携わったこともなかった。おまけに部品の標準化が進んでいたデスクトップパソコンは商品としての発展性がなく、「世界で最もつまらなくて儲からない」といわれていた。
しかし当時はインターネットが普及し始めた時期で、パソコンが世の中を大きく変えていくのは確実だと思った。インターネットの入り口であるパソコン事業をソニーが手がけるのは必然であり、「やれ」といわれたのも何かの運命かもしれないと思い、引き受けることにした。
ところが製造も営業もわからない。そこで私が取ったのは極めて原始的な方法だった。
まず、工場にお願いして製造ラインに丸1日入れてもらった。本社の事業部長が工場でパソコンを組み立てるというのは前代未聞で、工場側も肝をつぶしていたが、工員の方々に教えてもらいながら製造のイロハを理解できた。
同様に、営業の現場を理解するために日本全国にあった12カ所の営業拠点を訪問した。すべて回るのには1年半かかったが、夜の宴会なども通じて、土地ごとの営業担当者や量販店のバイヤーとも顔見知りになることができ、国内営業のポイントがよく理解できた。
40代になると腰が重くなりがちだが、人に聞いたり、本や雑誌を通じて情報収集したりするだけではなく、時には体当たりで知識を吸収することだ。幸いVAIOのデスクトップ事業は私が担当した2年後に黒字化し、破格の高利益率も達成することができた。