世田谷事件でも、ついに内田マイクに逮捕状が出た
警視庁管内で地面師詐欺が横行しているとはいえ、犯行を組み立てることのできるような頭の切れる地面師は、さほど多いわけではない。むしろ同じ犯人がいくつもの事件にかかわっているケースがほとんどだ。だからこそ、一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのである。
「亀野が動いた事件でいえば、武蔵野警察署に届けられた高円寺の土地取引もあり、売り主さんが亀野を信用して全部の書類を預けちゃった。手付金として3000万円払い込まれ、残金がまだなのに、亀野やその仲間が転売してしまった。それで彼らは武蔵野警察署に訴えられたけど、いざ訴えられると、返済する意思があると言いだし、それも事件にならなかった。僕のときも彼らは1000万円返すと言っていた。似たような構図なんです」
10人ほどの容疑者の中で逮捕されたのは4人だけ
5億円詐欺事件の被害者である津波はそう悔しがる。
「事件から数カ月、僕は必死で犯人を追いかけました。振込先となった大阪のセキュファンドには3回も出向き、留守番を名乗る人物にも会った。言ってみればその人間も一味でしょう。留守番から免許証も見せてもらい、姓名も確認した。それでも警察は動かない。本当に絶望的でした。毎夜12時頃まで、銀行から借りた5億円の穴をどうやって埋め、銀行に返せばいいか、考えあぐねました。会社で所有していた物件を片っ端から売って、生命保険や土地などをすべて担保に入れ、別会社で借り入れて返しましたけど……」
事件発生以来、2年半、文字どおり不眠不休で資金繰りに駆けずり回り、凌いできたのだという。
世田谷の事件では、幸いにも16年春、東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任した。さすがに特捜検事だけあって、事件の筋読みができる。また元特捜部長の大鶴にとっての後輩にあたるので、話を通しやすかったのかもしれない。そこから捜査が動き始めた。さらに1年半を経て、17年12月の逮捕にこぎ着けたのは、これまで書いてきた通りだ。だが、事件捜査は全容を解明したというにはほど遠い。
事件には、大物地面師の内田マイクやその仲間、司法書士の亀野や振込先となったセキュファンドなど、10人前後の犯行グループが見え隠れしてきた。にもかかわらず、逮捕されたのは4人だけであり、そのうち起訴されたのは北田と松田だけなのである。