“何か異質のようなもの”として扱われてしまう
もちろん、精強さを保つのは安全保障上も重要なことですから制度自体は致し方ない部分があります。
実際、陸・海・空三幕の幕僚監部の中にある募集・援護課や現場の地方協力本部も手をこまねいているわけではなく、「援護」と称される再就職支援を積極的に行うことでそれぞれの退職後のキャリアをサポートしていますし、募集の際にもその手厚さをアピールしたりもするそうですが、この少子化の折、子どもの就職にも親が積極的にかかわる時代。となると、より安定を求めて他の選択肢を検討するケースも多いそうです。
曹という現場を取りまとめる重要なポストから、幹部自衛官に至るまで、早期退職制度とはいえ最後まで勤め上げ国に貢献したということに変わりはありません。諸外国であれば、賞賛こそすれ再就職先にも困るということはないでしょう。
アメリカなどはここまで勤めれば、いわゆる軍人恩給でハッピーリタイアメントという方も少なくないそうです。もちろん、部隊や職種によっては任務の過酷さも米軍は世界一かもしれませんが。
海外に出張したり、あるいは研修で海外に赴任したりした現職自衛官が口々に訴えるのが、その扱いの違いです。
海外で制服を着て飛行機に乗ろうとすると、「Thanks for your service!」と声をかけられ、搭乗が優先されたり座席に空きがあればアップグレードされたりするなどの優遇を受けられたそうです。社会全体に国家への貢献を評価するという気風があるようなんですね。
一方で、日本に帰れば何か異質なもののように扱われ、かつては蛇蝎の如く嫌われた時期もありました。いまだに憲法学者の大多数は自衛隊を違憲の存在としています。
「せめて尊敬の気持ちを…」と本音を語った自衛官
そんな肩身の狭さは一体何なのだろうか? 海外に出て、そんな思いにとらわれる人もいます。自衛官は任官の際に、次のように職務宣誓しています。
〈事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め〉ることを誓っているわけです。
アメリカのような手厚さがなくてもいいけれど、その心意気にはせめて尊敬の気持ちを持って接してもらいたい。打ち解け、こちらを信用してくれた一部の自衛官の口からこんな本音が漏れてくるのは、夜もだいぶ深まった頃でした。
東日本大震災以降特に顕著になりましたが、自衛官に対する世間の見方がそれまでと180度変わって、今では政府内のどの職種よりも国民の信頼が厚くなっています。
たとえば、2022年に読売新聞社と米ギャラップ社が実施した日米共同世論調査で、信頼している国内の組織や公共機関を15項目の中からいくつでも選んでもらうと、日本では「病院」が78%(前回2020年調査74%)、「自衛隊」が72%(同70%)、「裁判所」が64%(同57%)でした。