我々の読みは当たった。ルックJTBは改革2年目に100万人を超え、今日に至るまで旅行パッケージのトップブランドの地位を守り続けている。時代を見通してリスクを取って決断し、品質とプロモーション力を磨いて実現していく。この体験を通して、私自身、リーダーとはどうあるべきかを大いに学んだのである。

状況が刻々と変わる変革の時代、リーダーに最も求められる資質の1つは、多角的な視点だと思う。以前、「夏は自然にかえろう」というキャンペーンを打ったところ、北海道のスタッフから「夏はいつも自然だ。夏は都会に行こうと宣伝してくれ」と言われたことがある。マーケットは多様だ。利用者や社員の声など水平軸の視野に、専門性という垂直軸の視点を掛け合わせながら、360度多角的に物事を見なければならない。しかも、複眼で細部を読み取る虫の目、時代の潮目を読む魚の目、そして高いアングルから俯瞰して状況を見渡す鳥の目が必要なのだ。

たとえば最近ではインターネット販売のウエートが急速に高まり、ネットに特化する旅行会社も出てきている。しかしネット販売か店頭販売か、あるいはデジタルかアナログか、という単純な議論に乗るわけにはいかない。

チケットや宿泊手配の利便性ではインターネットにかなわないが、海外旅行ではいまだ店頭に相談に訪れる方が多い。国内でも、陶芸体験や沖縄の野菜市場めぐりなどテーマが明確な目的型の旅行は非常に伸びている。デジタルの利便性とアナログの手触りや質感、両方を求めるのが人間の本質なのだ。

当社は2006年に分社化し、北海道から沖縄まで9つの地域会社をつくった。そこでは全国の観光地と連携した「地域交流ビジネス」を展開している。従来のように本社で企画した有名観光地の旅行商品を売るのではなく、地元の人々と一緒にその土地の観光資源を掘り起こし、地域を活性化させていくのだ。お客様が知らなかった旅行スタイルそのものを提案していくのがこれからの我々の使命である。

11年4月から取り組む旅行事業の再編でも、デジタルの利便性に、このようなアナログのよさを組み合わせながら、ネットと店舗の連携を図るのがメーンテーマになっている。ターミナル駅周辺、ショッピングモール、電話、インターネット……。あらゆるアクセスポイントでお客様の動きをカバーできる、機動力に富んだ販売ネットワークの再構築を図っていくつもりだ。

こうした事業改革というのはリーダーが1人で引っ張っていけるほど甘くない。リーダーは部下を巻き込み、チーム力を高めなければならない。そのためには、上司である自分が部下の目線まで階段を下り、ビジョンをわかりやすく伝えることが大切だと思う。

96年、本社の海外旅行営業部から川崎支店長として赴任したときに「田川支店長の話は難しくてよくわからない」と若い社員から指摘されたことがあり、このことに気づかされた。現場には現場の流儀がある。それを理解しないで、本社・次長のトーンのままで話をしていたから伝わらなかったのだ。私は支店の皆にどこが難しかったのか書き出してもらい、すぐに言葉や言い回しを改めた。