川勝平太前知事のリニア妨害の「尻ぬぐい」を任された鈴木康友知事が「余計な一言」を言ってしまった。ジャーナリストの小林一哉さんは「鈴木知事に求められるのはリニア妨害で迷惑をかけた相手へ敬意を払うことだ。前知事時代の蒸し返しなどあってはならない」という――。

山梨県知事の「招待」でリニア工事現場を視察

静岡県の鈴木康友知事は10月5日、山梨県の長崎幸太郎知事と共に、地下約900メートルで行われている山梨工区のリニアトンネル工事現場を視察した。

地下約900メートル地点の広川原先進坑を視察した長崎、鈴木の両知事
筆者撮影
地下約900メートル地点の広河原先進坑を視察した長崎知事(右)と鈴木知事

川勝平太前知事が「山梨県側の工事により、静岡県の地下水が山梨側に引っ張られる」という「言い掛かり」をつけたことで大幅に遅れている現場を一緒に視察しようという提案に、鈴木知事が応じた形だ。

本来、行政権限が及ばない隣県の知事を視察に呼ぶ道理はない。

長崎知事には、鈴木知事にあわよくば川勝前知事時代の誤った認識を認めてもらおうとの思いが心の奥底にあったかもしれない。

この視察で、鈴木知事はJR東海のリニアトンネル工事が山梨県内で順調に進んでいることを確認した。

鈴木知事は「JR東海のリスク管理に問題ない」と評価した上で、「いまのところ、県民に安心してもらえる状況である」などと明言した。

筆者はこの発言に違和感を覚えた。

ちょっと立ち止まって考えてみればわかるが、鈴木知事がわざわざ山梨県まで出向いて、山梨工区のリニア工事について、JR東海のリスク管理を論評するのはあまりにも不思議な話である。

山梨県民は鈴木知事の視察にどのような意味があるのか、大いに疑問を感じたはずだ。

何の行政権限を持たない静岡県の知事が山梨県のリニア工事を論評したのである。川勝前知事と同様、山梨県側にとっては大きなお世話どころか、越権行為とも言える。

静岡県民に向けられた「誤ったメッセージ」

そもそも「県民に安心してもらえる状況」(鈴木知事)とは、「静岡県民」を指すのであって、視察地の「山梨県民」を指していない。

あいにくの激しい雨の中、わざわざ2時間以上も掛けて、静岡県庁から山梨県早川町のリニア工事現場に初めて赴いた。そこで、静岡県民に向けて、「安心してもらえる状況である」と言ってしまった。

そもそもの川勝前知事の主張が言い掛かりなのだから、「安心できる」も「できない」もないのだ。

「安心できない状況」と考えたならば、川勝前知事同様に山梨県のリニア工事に「待った」を掛けることになってしまう。

まさか鈴木知事は川勝前知事と違い、そんなことをするはずもないだろうが、つまりこの発言で川勝前知事の「言い掛かり」を認めてしまったことになる。