工場労働者が資本家に反発し騒動に
ネオマオをはじめ、共産主義を原理主義的に考える人からすれば、これは不徹底甚だしい姿勢である。結果、2018年の夏に衝撃的な事件が起きた。
深圳市坪山区にある溶接機工場で、賃金の未払いや厳しすぎる管理に反発した工場ワーカーたちの労働争議が発生――。ここまでは中国でよくある話だったが、ワーカーたちは党の管理を受けない自主労働組合の設立を要求。この闘争を支援するため、左翼の学生や20〜30代の若い活動家たちがこぞって工場に駆けつけたのだ(佳士事件)。
共産党の国である中国における「左翼」とは、すなわち毛派やマルクス主義者のことである。数十人の若者たちは現場で国際共産主義運動を象徴する労働歌「インターナショナル」を合唱して気勢を上げた。「団結就是力量」(団結は力なり)など、毛沢東時代のスローガンも飛び出した。
BBC中国語版の記事によれば、闘争に参加したネオマオ青年たちはほとんどが豊かな家庭の生まれだが(自分を「既得権益層」と発言した学生もいた)、中国社会の矛盾を座視できず左傾したのだという。
もっとも、支援運動の発生から数週間後、当局は工場前に陣取っていた若者らを強制的に排除し、学生と労働者ら約50を拘束した。運動のリーダーたちはその後、「罪を認める声明」を無理やり発表させられている。
「朝9時から夜9時まで週6日勤務」に耐える若者たち
中国ではこの佳士事件を境に、ネオマオ系の学生が逮捕されたり、北京大学などのマルクス主義研究サークルの活動が妨害を受けたりするようになった。
2021年2月には、毛派系のネットユーザーやウェブサイトが支援を表明していたフードデリバリー配達員の権利向上運動が弾圧される「陳国江事件」も起きた(中国の配達員たちの労働環境は非常に悪い)。悲劇と喜劇は紙一重だ。まがりなりにも「共産党」を名乗る政党が、搾取に苦しむ労働者に寄り添うマルクス主義の運動を弾圧する構図は、なんとも皮肉である。
中国の若者のネオマオ・ブームは、一連の事件を通じてむしろ強まり、広がりをみせるようになった。経済が減速するなか、若者の就職難は深刻であり、やっと職を見つけても「996」(朝9時から夜9時まで週6日勤務)の薄給激務が待っている。
かつて好景気だった時代は、IT大手アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)のようなビジネスエリートの成功譚を伝える自己啓発書(「励志」と呼ばれる)が好まれたが、いまの若者の心にはさっぱり響かない。努力が報われない社会に失望して、「だめライフ」を肯定する躺平(寝そべり)という生き方も流行中だ。