熱しやすく冷めやすい「メディアの性質」

たとえば、安倍政権で二度にわたって引き上げられた消費税が妥当だったか否か、金融緩和を維持した上でもっと強力な財政出動をすべきか否かといった質問であれば、まだ問いとしては答えやすい。私もそう聞かれれば、消費増税には反対だが、積極的な財政出動には賛成だと答えられる。この程度の問いや議論もすっ飛ばしてしまえば、議論などおよそ成立しない。

ちなみにみんな共に成長を断念して貧しくなろうというのなら、現代のマルクス主義経済学者や左派政党が唱えるような経済政策のほうがはるかに効率的だとは思うが、そんな政策への支持もまたまったく広がっていない。

私が「退屈な政治」と呼んでいるのは、個別具体的な政策や法案について、大きなテーマを示した上で、ディテールを突き詰めていくような議論である。私がインタビューした爆笑問題の太田光はメディアの性質について、こんなことを語っていた。私が急速に盛り上がり、急速に熱が冷めていくそんな状況をどうみているのかと訊ねたときの言葉だ。

「今でも日本社会は空気で動くものだと思っている(中略)。(問題が)複雑になっていくうちに『あれ? これって何が問題なんだっけ?』と多くの人がついていけなくなり、取り上げられなくなる。これがマスコミのパターンだよね」

太田の言葉も核心をついている。彼が語っているのはまさにわかりやすい争点に飛びつくメディアの特性であり、「退屈な政治」の真逆、つまり「わかりやすく、熱中しすぎる政治」の特性だ。

押し寄せるメディア
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「中道路線」は維新に奪われてしまった

「アベ政治を許さない」はかつて左派が高らかに掲げたスローガンだったが、カタカナを用いて抽象化された「アベか反アベか」は極めて問いやすい争点だった。「反アベ」であるといえば、すべてが包括されて語ることができた。具体を問わなくても、つながることができたのだ。しかし、退屈な議論をすっ飛ばしてきたことで、言葉も思考も明らかに劣化したように思う。

データを観察した上で、簡単に昨今の政治状況を整理してみよう。参照するのは、秦正樹(政治心理学)の実証分析(2022年に取材したものであることは断っておきたい)である。

秦らの研究グループは有権者への調査でこんな質問を試みている。主要政党のイデオロギーについて、0を最も左派、10を最も右派、真ん中を5としたとき、主要政党と回答者自身をどこに位置付けるか。有権者の平均は5.5であり、最も右派と評価されたのは自民でその平均値は6.6だった。左派は共産と社民が共に3.7で、立憲も左派寄りに位置づく4.7だった。

維新はど真ん中の5.5だが、政権担当能力があるかどうかという評価に限れば、自民党に大きく水をけられている。