※本稿は、和田秀樹『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
高血糖と低血糖では、どちらの方が死亡率が高いか
年をとればとるほど、引き算ではなく足し算医療がよいということを私は常々話しています。
「血圧もコレステロール値も血糖値も下げましょう」
そんな「引き算医療」はもうやめませんか。
中でも、私が一番脳に悪いと思っているのが「低血糖」です。
アコード試験という、北米における糖尿病の大規模調査の代表的なものを紹介したいと思います。
糖尿病のリスクを見る検査数値であるHbA1cを正常値である6.0%以下に下げようとした群と、7.0〜7.9%とした群を比較したところ、死亡率が25%も違っていました。なんと血糖値を正常値まで下げた群の方が死亡率が高かったのです。この調査は5年行う予定でしたが、3年半で中止となりました。
血糖値を6.0%まで下げたら16%もの人が、値を7.0〜7.9%にしても5%の人が、重度の低血糖を起こしていたのです。
死亡率だけを見ると7.0〜7.9%をキープする方がよいかもしれません。
しかしその状態であっても5%が低血糖状態になっていることを考えると、それでいいのだろうか? と私は思ってしまいます。
もちろん、HbA1cが非常に高い人が体に不調を感じて、ある程度下げてその人の健康を維持するという治療はよいと思います。でも、医師から言われるがまま、自分の体の声も聞かずに、無理に下げるのもどうかと思います。
「悪玉コレステロール」は悪者ではない
ちなみに私が血糖値を9%ちょっとでコントロールしているのは、日常的に運転をしているからです。運転中に低血糖を起こすと怖いので、そのリスクを少しでも下げようとしているのです。
LDLコレステロールというのは、それが多いと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまうために敵対視されているようで「悪玉コレステロール」と呼ばれていますが、私は、そんなに悪いものと捉える必要はないと考えています。無理に下げなくてもいいと思うからです。
ある女性の例を紹介しましょう。
遠方から、私のところに相談に来たことがあります。
ある病院で、LDLコレステロール値が高く動脈硬化が進んだことで、冠動脈というのが細くなってしまい、ステントをカテーテルで入れて血の流れをよくさせる治療をしたという患者さんです。そこまではよかったのですが、そこで動脈硬化の再発予防のためにと、どうも強力なコレステロール値を下げる薬(注射)を投与されたそうです。35キロぐらいしかない体に、ですよ。