収入・貯金がなく年金繰り上げしても、職がみつかることも

前出の理由に対し、ファイナンシャル・プランナーとしてコメントをしてみたい。

①生活に困って早く年金をもらって生活の足しにしたい。

これは無理からぬ理由で、収入のあても貯蓄もなく、年金しか頼るものがないのなら、やむを得ないと思う。問題は「どのていど切羽詰まっているか」ということだ。しかし、元飲食店店員で基礎年金・老齢厚生年金併せて65歳から年100万円もらえる人が、約15万円の減額覚悟で62歳から繰り上げ受給したが、繰り上げした直後に安定した仕事が見つかり後悔しているという記事があった。

厚生労働省の分類に従えば、この人は個人事業主ではなく会社員ということになるが、年金繰り下げは基礎年金・厚生年金をまとめないとできないのと一旦繰り上げると取り消しができないことに注意をする必要がある。何よりも考えなくてはいけないのは、長生きのリスクだ。

この例では、3年繰り上げで14.4%年金が減り、それが一生続く。

△0.4%/月×12カ月×3年=△14.4%
(年金受給権者が1962年4月2日以降生まれの場合)

人の寿命はわからない。働けない状況になったときに死ぬまでもらえる年金は頼りになるので、それを減らすことは極力避けるべきだ。できれば、仕事を探すなどして65歳から満額の年金をもらうことをお勧めする。

男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

60歳から受給した場合、寿命が81歳までなら「得」になる

②60歳前に健康診断で問題点を指摘されたり、がんを宣告されたりして、長生きできるか自信が持てなくなり、年金繰り上げを決めた。

ある意味やむを得ない判断かもしれない。65歳から60歳まで年金を繰り上げた場合、年金は24%減るが(年金受取者が1962年4月2日以降生まれの場合)、損益分岐点は80.8歳となる。すなわち、80.8歳までに亡くなれば得、80.8歳以上生きれば損ということになる。年金は長生きのリスクを担保するものであることは、どんな場合でも変わらないが、自己の判断で繰り上げするのなら、コメントする余地はない。