日系アメリカ人から寄せられた格別の祝福

初登板後、村上の下には銀の食器セットが届けられた。バットメーカーのルイスビル・スラッガーは投手の村上に対して、「バットの専属契約をしてほしい」とオファーする。その返礼として、左利き用のゴルフセットも贈られた。

ニューヨーク、フィラデルフィア、ピッツバーグと転戦して本拠地サンフランシスコに戻った。このとき空港には現地のアメリカ人だけでなく、多くの日系人が村上の快挙を祝福しに集まっていた。鬱屈した思いを抱えていた日系アメリカ人にとって、村上の快挙は心から誇らしかったのだ。

村上には、今でも忘れられない思い出がある。

「日本人メジャーリーガー初退場」寸前だった

「ドジャースタジアムで試合をしたときのことです。明らかなストライクなのに判定はボール。それで、2~3歩アンパイアに歩み寄って、“Why?”って言ったんです。そうしたら、こちらに向かって何やらまくし立ててくる。

私としては何を言っているのかわからないから、“しょうがないや”って背中を向けて、センターバックスクリーンを眺めながら、“フーッ”って深呼吸して落ち着こうとしました。

そのときに、ロジンバッグをポーンと、空高く放り投げたんです。5~6メートルは投げたんじゃないかな。かなり高く放り上げました。すると……」

村上の一連の態度を見て、アンパイアは「審判に対する侮辱行為だ」と受け取った。気がつけばホームとマウンドの中間地点までやってきていた。キャッチャーが必死に「彼は日本人なんだ、まだ若いんだ、英語がよく理解できないんだ」となだめていた。

「……とにかく私に対して怒っていました。で、“もう一回やってみろ、次は退場だぞ!”という意味のことを言いました。それで無事に試合は再開したんだけど、今から思えばあのとき退場になっていればよかったよね。そうすれば、《日本人メジャーリーガー退場第一号》となれたのにね(笑)」

村上はケラケラと楽しそうに笑った。しかし、この話には後日談がある。