両親を世話してきた姉に弟は「金を返せ」

ケース2:両親と疎遠の弟から、財産の横領を疑われる姉

こちらのケースの相談者Dさんは2人きょうだいの姉です。

父親が病院に入院していて、母親は実家でひとり暮らしをしています。

Dさんの弟は実家の近所に住んでいますが、たまに顔を見せる程度で、両親の世話をする気はまったくありませんでした。

そのため、弟よりも実家から遠いところに住んでいるDさんが母の世話をするようになり、父の見舞いや母の通院のために送迎をしたり、外食や旅行に連れて行ったりしていました。

やがて、心身が弱ってきた母から頼まれて通帳とキャッシュカードを預かり、母の代わりに買い物や必要な支払いなども任されるようになりました。

ある日、母から「日ごろのお礼に孫の大学にかかる費用を出してあげる。300万円を口座から引き出して受け取って」と言われました。

Dさんは「銀行の窓口に行くのは面倒なのでATMで小出しして」と母に言われたため、ATMで50万円ずつ6日間出金して、子どもの学費に充てました。

母が死亡し、弟から母の通帳を見せるよう言われたので提示すると、「母が孫に300万円あげるはずはない、取ったんだろう? 返せ」と言ってきました。

信頼している相手に裏切られるとも限らない

このように一部の相続人が被相続人の財産管理をしていた場合、疎遠だった他の相続人から横領を疑われるケースは珍しくありません。

そういう場合、被相続人の財産は被相続人のために適切に使用し、そのうえで贈与を受けた、などの説明をする必要が出てきます。

しかし、家族間の贈与は契約書などの資料がないことも多いため、贈与を受けた事実が認められないことになる可能性があります。

このケースでは結果的に300万円を返還しなければならない、となりかねません。

証拠がない現金の贈与はトラブルを招きやすく、家族間でも贈与の証拠、つまり契約書を作成するなど、明確な証拠を作っておく必要があります。

ケース1、ケース2に共通していることは、「贈与を受けたことを認めてくれるだろう」「親のお金をちゃんと使っていたことを分かってくれるだろう」と相手を信頼していて、証拠を準備することをしなかった場合、相手にその信頼を裏切られてしまうと、苦しい立場に追い込まれてしまう危険がある、ということです。

そして、現金手渡しは証拠のないことが多いため、このような状態になってしまう可能性が高いといえます。