現金の手渡しは相続トラブルのもと

相続では実にさまざまなトラブルが起こります。

これから「事例集」として実際にあった相続トラブルをご紹介します。個人が特定されないよう内容の一部を変えていますが、すべて実際にあったトラブルです。

ケース1:母親が生前、記録など残さないまま兄を優遇

相談者のCさんは2人兄弟の弟です。

Cさんの母親は昔から兄に甘く、何かというと兄を優遇していました。

兄は大学を卒業してもしばらく無職で実家に住み続け、その後、起業して事業を始めましたが長続きせず、事業をコロコロと変えていました。

その間ずっと、母は兄の借金を肩代わりしたり、事業資金を援助するなど、多額のお金を渡していました。

ただ、どれも現金手渡しで、契約書などの書面はもちろん、メールやLINEのやり取りも残っていませんでした。

日本円のお札を両手で広げて見せる手
写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan
※写真はイメージです

母が死亡して、遺産分割の際に兄に対して、これまで兄が母からもらってきたお金を清算したいと告げると、兄は「お金をもらったことはない」としらばくれました。

どう考えてもウソなのに証拠がありません。「なんとかならないか」とCさんは考えています。

母→兄の贈与の証拠がなく、困ったことに

事業資金の援助や借金の肩代わりなどは特別受益に当たる可能性があります。

特別受益として認められれば遺産の前渡しを受けていると扱われ、遺産から新たに取得できる分が減るという意味で、贈与を受けた相続人にとっては不利益となります。

しかし、特別受益は、贈与を受けた相続人が認めない場合、証拠がないと認められません。

このケースは母親が生前、記録など残さないまま現金を手渡していたため、兄が受け取ったとの証拠が存在しないのです。

贈与を主張するCさんが、その時期や額などを主張するとともに、裏付けとなる証拠を提出しなければならず、これらができないと兄の特別受益は認められません。

現金手渡しは証拠が残りにくいので、特別受益を受けた相続人がしらばくれてしまうと、これを清算することが難しくなってしまいます。