EUの今のEVシフトの支援の在り方は、いわゆる「セイ法則」的な考えに基づいているともいえる。つまり供給を刺激し続ければ、需要が掘り起こせるという見解をEUは持っているように見受けられる。一方で、EVメーカーは供給の増加で需要を掘り起こせるとは考えていないからこそ、先行きの生産計画を下方に修正していることになる。
見方を変えると、EUのEVメーカーの生産能力は、域内の潜在的な需要に比べるとすでに過剰となっているのではないだろうか。つまりEUの旗振りの下、一種のユーフォリアに包まれたEU域内のEVメーカーは、生産能力を上げるために積極的に設備投資を行ってきたわけだが、すでにその設備は過剰となっている可能性は高いと考えられる。
域内のEV生産能力は過剰の恐れ
EUのEVメーカーが過剰設備を抱えているなら、購入補助金などを通じて需要を刺激しつつ、その解消を図ることが現実的な選択となる。一方で、中国から低価格のEVが流入し、それが域内のEV需要を奪っているという事実もある。域内製EVの購入にだけ補助金を給付することは明らかな国産品優遇であり、本来なら自由貿易の原則に反する。
EUは本来、自由貿易の原則を重視する。そうした姿勢とは矛盾するが、EVの過剰設備を解消するためには、EUは建前にばかりこだわっていられないというところだろう。あるいは対極的に、中国製の低価格EVを全面的に受け入れ、域内での市場競争を通じて、域内製EVの低価格化を実現し、需要を掘り起こすことも考えられる。
現状のEUのスタンスは、この二つの方向性の間でバランスを取ろうとしている印象を受ける。いずれにせよ、EUが掲げる野心的なEVシフトには、目下、非常に強い逆風が吹いている。自動車の電動化がグローバルなメガトレンドだとしても、EUはその旗手になる前に、自らが積み上げた過剰設備の解消に努める必要がありそうだ。
かつて日本の完成車メーカーは、EVシフトに慎重な姿勢を示したことから、脱炭素化に及び腰であると批判されていた。日本の完成車メーカーは輸出産業であることから、世界の需要動向を見据えている。供給のルールを変えることでグローバルな主導権を握ろうとしたEUだが、追い風を得たのは今のところ日系メーカーだといえそうだ。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)