天むすに添えてある「きゃらぶき」の魅力
蓮根蕗これが子供の弁当とは
撮影も深夜を迎えると全体の士気が下がる。働き方改革の波は映像関連の現場までは及んでおらず、いまだに労働時間は相変わらずだ。そんなよどんだ空気漂う前室に製作部が段ボールを運び込む。みんなの目は釘付けになる。そこに夜食が入っているからだ。特別休憩時間を設けるわけではない。お腹が空いたらセットの隅でパクつくも良し、帰りのタクシーまで我慢してそこで食べるも良しだ。
内容は王道のカツサンドから、海苔巻きやおいなりさん、豪華なものはカニ飯まで多岐にわたる。最近は「キンパ」という韓国海苔巻きをよく見かけるようになった。しかし僕のお気に入りは「天むす」。小さなおにぎりに海老の天ぷらが頭から突っ込んである名古屋名物の食べ物だ。と言っても深夜にエビ天を食べる歳ではない。はじに添えてある「きゃらぶき」が食べたいのだ。江戸発祥の佃煮も今では全国で食べられるが、このふきの佃煮だけは天むすの横でしか目にすることは無い。こんなに美味しいのに。
パウンドケーキに入った「アンゼリカ」が大好きだった
子供の頃に食べたパウンドケーキと言えば、断面からのぞく具は今のようにドライフルーツの類いではない。チェリーの砂糖漬けやアンゼリカがちりばめられてあった。原色の鮮やかな色使いこそ子供が好きなものだろう的な押しつけを感じる。しかし僕はこの緑の物体アンゼリカが何故か大好きだった。それだけをほじって集めて食べていた。大きくなったらこの緑部分だけ集めて大人食いしようと心に決めていた。しかしその物体がふきの砂糖漬けであることを知り呆然とする。ふきと言えば華やかなパティシエの世界とは縁遠い、おばあちゃんの煮物的立ち位置の食材だ。なんならその辺に生えている。
時季になると川沿いの土手の辺りに自生していて学校帰りに摘んで帰った。犬が小便をしていないような奥まった場所のものを選んだ。細身のものを「ツワ」太いのを「フキ」と呼んでいた記憶がある。母親がゴリゴリと板ずりをしてアクを抜いていた。自分で取ってきたから美味しく感じてはいたが、はたして子供の味覚にとってはどうなのか。しかし童謡「おべんとうばこのうた」の締めの食材は「筋の通ったふーき」なんだよな。