「男は仕事、女は家庭」という古い役割分業を変えるべきだった
なぜこうなってしまったのか、一体誰が悪かったのか。原因のひとつは先ほどお話しした通り、日本社会の仕組みが性別役割分業を前提につくられていたことにあります。別の角度から見れば、古い仕組みを変える手立てをとってこなかった政府が悪いとも言えるでしょう。
さらに別の角度から見れば、その仕組みに何も言わず、黙って従ってきた国民ひとりひとりが悪いということにもなります。もちろん、結婚や出産で退職する女性が多かったのは、夫や親世代がそれを望んだり、仕事と育児を両立できる環境がなかったりしたせいでもありますが、多くの人が「そういうものだ」と思い込んでそうした行動を選択していたのです。
現在の日本の状況は、社会や政府、国民一人ひとりの行動の積み重ねによって引き起こされたものです。欧米諸国は早くからこうなることを予測して、日本よりずっと前から女性が働き続けられる社会をつくり上げてきました。日本も同じころから取り組みをしていれば、こんなひどい状況にはならなかったはずです。
30年前の予想より悪くなったのは、男性の非正規労働者化
私は30年ほど前から、女性内部の格差や貧困について研究を続けてきました。当初から、このまま行けば日本は問題を抱えることになるだろうと思ってはいたのですが、ここまでひどい状況になるとは想像していませんでした。ある時期から、私にとっては予想外だった現象が拡大し始めたからです。
それが男性の非正規労働者化の進行です。以前から女性の非正規は多かったものの、男性にまで広がるとは思いもしませんでした。そして非正規で経済力の低い男性が増えるにつれ、結婚できない男性も増え始めたのです。
男性が正規雇用であれば、ある程度の収入があるため非正規の女性と結婚しても生活していけるでしょう。しかし、両方が非正規の場合はかなり厳しくなります。結果として、経済力がないがゆえに結婚相手として選ばれない男性が増えることになりました。
また、経済的に不安定な男性が増えたことから、近年では「結婚相手に専業主婦になってほしい」と考える男性は全体の10%以下になっています。以前は40%近くいたのに、今では男性も女性にある程度の収入を求めるようになっているのです。
非正規であるがゆえに結婚できない男性が増えれば、そのぶん結婚できない女性も増えます。さらには男性でも女性でも、非正規で収入が少ない人は結婚相手として選ばれにくくなっている。このままでは少子化はますます加速し、日本は存続の危機に陥るでしょう。