ヒアリングでわかった潜在的な需要

「VARONは発売段階になっても、社内には半信半疑でみている人も少なくありませんでした」とスキンケア事業部の西山雅大氏(37歳)は振り返る。

ただ、西山氏自身は「かなり早い段階で『いける』自信はありました」とも語る。未開拓市場にただ乗り込んだわけではなく、十分すぎるほどの顧客ヒアリングを重ねたからだ。

同社では毎月部署に関係なく全社員が4人一組でランダムにチームになって顧客ヒアリングを実施している。定期的なヒアリングを続ける中で50~70代の男性から加齢に伴う共通の悩みが浮き彫りになっていった。外見だ。

サントリーウエルネスの顧客は健康食品ユーザーなので、健康への意識は一般に比べて高い。彼らは年を重ねても若々しくありたいが、見た目の変化はどうしようもない。「見た目への自信が失われていくことで人生に前向きになれない」という声が少なくなかった。

「老いに対する見た目を解消したり、清潔感を演出したりするスキンケアへの潜在的な需要は感じた」(西山氏、以下同)

だが、それはどのような商品なのか、どのような形ならばお金を払ってもらえるのか。そもそも既存の市場に存在するものなのか。

VARONの香りは3種ある
撮影=プレジデントオンライン編集部
VARONの香りはOriginal、Classic、Freshの3種類。一番人気はOriginalという。無香性もある。

「君にシニアの気持ちがわかると思うな」

そのとき、上司にいわれたのは「30代の君にシニアの気持ちがわかると思うな」。生きている長さも違えば、属性も家族構成も違う。彼らが何を考えるかを想像してもできるわけがない。それならば、徹底的に聞くしかない。ターゲットを絞り、年間で100人以上に1対1でデプスインタビュー(調査対象者と1対1で話し合う方法)して根掘り葉掘り聞いた。

「Zoomで自分の顔を見て、こんなに老けていたのかとショックだった」
「孫に『おじいちゃん、がさがさしているし、なんかくさい』と言われて……」

ユーザーは単純な健康問題に悩んでいるというよりは、外見の変化からくる自信の喪失に苦しんでいる。インタビューを重ねれば重ねるほど、中高年向けの男性用スキンケア商品へのニーズは確信となった。

経営トップも商品化を強く推した。20年1月に、社長に就任した沖中直人氏が「『個客』原理主義」を打ち出していた。「マス」ではなく顧客に寄り添い、最高の顧客体験を提供しようと号令をかけていた。

「顧客に寄り添う」と言葉では多くの企業が口にしているが、実行できている企業は多くない。「顧客の生の声を徹底的に聞き、新しい市場をつくれという社内の風土は強い追い風になりました」