今度こそ効果の有無がわかるか
丸山ワクチン支持者は「研究開始前の見込みよりも子宮頸がんで亡くなる患者さんが少なかったため、統計的有意差が出なかったのだ」などと主張します。そうかもしれませんが、200人超が参加した臨床試験でも有意差が観察できないわけですから、丸山ワクチンに効果があったとしても、その効果は小さいといえます。少なくとも週刊誌やテレビでいわれていたような劇的な効果はありません。
有意差が観察できなかった臨床試験の結果を受け、対象者600人超という症例数を増やした、アジア7カ国国際共同の新たなランダム化比較試験が進行中です。現時点で進行中の丸山ワクチンの臨床試験は私の知る限りこれ一つだけです。進行中というか、予定では2022年には終了しているはずです。
臨床試験は多くの患者さんのご協力があってこそ実施できます。そこには大きな倫理的責任が生じます。ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則を宣言したヘルシンキ宣言では、「研究者は、人間を対象とする研究の結果を一般的に公表する義務を有し報告書の完全性と正確性に説明責任を負う」とされています。
不都合な結果が出たからといって論文として発表しないのであれば製薬会社の倫理的責任が問われかねませんから、そろそろ結果が論文として発表されるでしょう。今度こそ丸山ワクチンの効果についてはっきりしたことがわかることを期待しています。
薬の効果は「誤認」されやすい
さて、そもそも丸山ワクチンは「劇的に効く」と主張されていたはずです。しかし、なぜか、臨床試験では劇的な効果が発揮されません。丸山ワクチンに限らず、メディア等で期待が先行した「特効薬」にはよくある話です。
効果のない薬や治療法でも、プラセボ効果や自然治癒などによって「効果があった」と誤認されることはよくあります。「薬に効果があってほしい」「薬には効果があるに違いない」という先入観が効果判定の目を曇らせるのです。薬の投与後に治癒したとしても、薬が効いたのかもしれないし、自然治癒かもしれません。だからこそ臨床試験において、患者さんや医師の両方ともが実薬群か対照群かを知らされない二重盲検法が採用されます。
がんのような通常は自然治癒しない疾患であっても誤認が起きることは、クレスチンやピシバニールの事例が教えてくれます。まして新型コロナウイルス感染症のように自然治癒しうる疾患では、より誤認が起きやすいでしょう。患者さんが誤認するのは仕方がありませんが、医師が誤認するのは問題です。ごく一部の医師が経験則のみで「特効薬だ!」と述べ、それをメディアが取り上げると、他に有効な治療法がないことに対する不満が拡散を後押しし、慎重な意見が顧みられなくなりがちです。
日本で新型コロナにアビガンやイベルメクチンが効くと誤解されたように、海外では抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンが熱狂的に支持されました。しかし、後に行われた複数の臨床試験を統合した結果、効果がないばかりか、薬を使わない場合と比べて全死亡の約11%の増加と関連していることが示されました。全世界でヒドロキシクロロキンの投与のために約1万7000人が死亡したと推計されています(※4)。きちんと計画・実施された臨床試験で結果が確認できるまでは、理論的に効きそうでも、あるいは印象的な改善例があっても、判断を保留するのが賢明です。