男女格差の問題にも鋭く切り込むドラマ「虎に翼」(NHK)。第21週では寅子(伊藤沙莉)が交際相手・星航一(岡田将生)からプロポーズされるが、どちらの姓にするかで悩み、事実婚を選択した。ライターの村瀬まりもさんは「いまだに選択的夫婦別姓制度がない日本の民法に疑問を突きつけた展開だった。資料を調べてみると、寅子のモデルである三淵嘉子さんは、再婚して新しい夫の姓に変えたが、やはり迷いはあったようだ」という――。

結婚すると別姓が認められないから、選んだ愛の形は「事実婚」

「民法第750条……。夫婦になれば、どちらかの名字が変わる」
「どちらかの名字は名乗れなくなるということでしょ。個人の尊厳や平等とかけ離れてはいないかしら?」
「はて? どうして私たちの名字が変わる前提なの」

今から約70年前、昭和31年(1956)ごろを舞台にしたとは思えないほど、女性にとってはリアルなテーマだった。女性最初の裁判所長・三淵嘉子みぶちよしこをモデルに、寅子ともこ(伊藤沙莉)が法曹界で道を切り開いていく様を描く「虎に翼」(NHK)。寅子は、ひとり娘をもうけた最初の夫・佐田優三(仲野太賀)を戦争で亡くした後、同じ裁判官の星航一(岡田将生)と心を通わせ交際する。だが、いざ航一からプロポーズされると、兄嫁で親友の花江(森田望智)をはじめ、家族や友人から当然、女性の自分が姓を「星」にすると思われていることに「はて?」と疑問を持つ。

蒲都「常磐館」にて(1956年3月 撮影日は不明)愛知県 蒲都市
写真=©三淵邸・甘柑荘/アマナイメージズ
蒲都「常磐館」にて(1956年3月)愛知県 蒲都市

夢の中で、現在の自分と、最初に結婚する前の「猪爪寅子」だった自分、結婚直後の「佐田寅子」、そして、再婚して姓を変えた場合の未来の自分「星寅子」が集合して、分身同士の争いのように意見を戦わせるシーンも話題になった。最初の結婚は、弁護士として社会的な信用を得たいからという狙いがあり、対外的に既婚者とわかってもらうため、むしろ姓を変えたかった寅子。しかし、その後、夫に死なれ、佐田姓のまま裁判官としてキャリアを積んできた。

最新データでも結婚した女性95%が姓を変えている

そこで再婚して姓を変えてしまうと、仕事を頑張ってきた自分が消えてしまうような気がする。しかし、未来の自分は「初代最高裁判所長官の息子の妻という肩書も手に入るのよ。社会的地位も上がるんだから」「つべこべ言わずに、星寅子になっちゃいなさいよ。それで丸く収まる」と現実的なメリットを挙げて、結婚をけしかけるのだった。

そもそもなぜ女性の方が姓を変えると思われているのか。男女は平等であり、民法でも「夫または妻の姓を名乗る」と定められているのに……。これは、多くの女性が結婚するときに抱いた疑問だろう。現在でも2022年(令和4)に結婚した男女のうち95%で、妻が夫の姓に変更している(図表1)。そのうち旧姓使用を希望する人は39%、4割もいる(図表2)。

【図表】婚姻時に夫婦が選択した姓
※出所:内閣府男女共同参画局「夫婦の姓(名字・氏)に関するデータ
【図表】旧姓の通称使用を希望する者
※出所:内閣府男女共同参画局「夫婦の姓(名字・氏)に関するデータ