「何でもできます」社員は評価されない
日本の企業が生き残るためにグローバルなオペレーションを拡大していくとしても、日本型のメンバーシップ型雇用は、海外では適用されないと思ったほうがいいです。実際、トヨタにしてもアメリカのオペレーションは、明確なスキルに基づくジョブ型です。
つまり、海外オペレーションの比率が高くなるとメンバーシップ型の比重は下がり、最後は少数派になります。
メンバーシップ型の発想で海外で通用するかというと、なかなか難しいためです。
明確なスキル・ベースのジョブ型の海外では、日本のメンバーシップ型にある「何でもできます」の調整役的な総合職は機能せず、本社の人間といっても現場ではリスペクトされないのが現実です。
「いや、日本でもジョブ型への移行と言っているのだから大丈夫」
そう思う人がいるかもしれません。しかし日本で議論されているジョブ型は「人ありき(人の値段)」のジョブ型で、「ポジションありき(ポジションの値段)」の欧米のジョブ型(同じジョブであるかぎり、原則的に定期昇給はない)とは別物です。
日本の「ジョブ型」は人件費カットの手段
政府は日本型のジョブ(職務給)制度への転換を声高に叫んでいますが、政府の目指すところは、「メンバーシップ型での定期昇給が機能しなくなったので、職務給で定期昇給をさせよう」といったところですが、肝心の日本型職務給の定義ができていないのが実情です。
岸田首相は、2023年6月までに政府として日本型職務給のモデルを示すと言いましたが、2024年1月の施政方針演説に至っても、まだ、「日本型の職務給の確立で従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給への移行を行う」と言っているだけで、依然として日本型職務給の定義はできていません。要は、定義は難しいので、賃上げが重要と言って議論のすり替えを行っているのです。
日本的なジョブ型推進の結果は、恣意的な目標設定による成果評価(欧米のジョブ型は契約で業務のアウトプットは決まっているので、そもそも評価しないです)による人件費カットに向かうので、欧米で通用する企業や業種横断的なスキル獲得にはおそらく向かわないと思います。かつての成果主義と同様に、日本のジョブ型は異形なジョブ型になると思います。
つまり、自分の価値を高めるスキルの獲得は会社に期待するのではなく、リスクを取って自分で進めていく必要があります。「政府や企業が促進しているリスキリング推奨の波に乗れば大丈夫」とは思わないほうがよいでしょう。