タイでは「シャトレーゼ」が発音しにくい
生の果実であればどこの国のものでもいいわけではない。あくまで「日本産」でなくてはダメなのだ。その日、まず売り切れたのは日本産の白桃が載ったケーキだったのである。
また、タイの店舗ではタイ産の果物を載せたケーキを売ったこともある。今年(2024年)の3月、プラムマンゴーというタイの特産品を生クリームのケーキに載せてみた。タイの従業員が考えたものである。しかし、客はプラムマンゴーが載ったケーキよりも日本産のイチゴのショートケーキを買っていった。やはり日本産果物が人気だった。
マネージャーのミューさん、店長のオーラピウンさんと話していると、ふたりとも「シャトレーゼ」という単語の「ゼ」の音を「セ」と発音していた。しかも、非常に言いにくそうなのである。
「どうしてですか?」とわたしは訊ねた。
すると、ミューさんが「タイ語には『ゼ』の音はないんです」と答えた。
「ない音を発音するのは難しい。お客さんも『シャトレーゼ』とは言いにくいと思います。そこはお店が損をしているところかもしれません。しかし、慣れれば言えるようになります」
売れないものは「日本的なビジネス」で解決していく
海外への進出で成功するには商品がよくて、価格がリーズナブルなだけでは足りない。その国の文化を知り、文化に合わせる姿勢が必要になる。ミューさんたち、現地で運営するタイ人は日本人が気づかない細かい点をアドバイスする役目を担っているわけだ。
さて、セントラルワールド店で売れるのは日本産果物と生クリームのケーキだけではない。
「和菓子ではバターどら焼きが人気です。タイ人の好きな甘いバタークリームと甘いあんこの組み合わせだから、嫌いなタイ人はいません。また、お客さんの目の前で作っているアップルパイも売れます。アップルパイは冷凍の生地と中身を持ってきて店で焼いています。
アイスクリームも売れます。タイは一年中、暑いから、いつでも売れます。自宅に冷凍冷蔵庫があるタイ人はパックのアイスクリームを買っていきます。パックのアイスクリームはこれからもっと売れるでしょう」
商品のなかで、生菓子に比べると動きが鈍いのが、マドレーヌ、フィナンシェといった焼き菓子だ。だが、ミューさん、オーラピウンさんたちはギフト用の詰め合わせにして販促した。すると、売れるようになった。彼女たちは売れない状態をそのまま放置するのでなく、アイデアを出して改善している。日本的なビジネス手法で問題を解決している。