いずれにせよ、大雨・台風時に「危ないと認識していない」ために行くのであって、単に「危ないからダメ」というだけでは、「いやいや大丈夫だって」と返されてしまい、本人の認識や行動を変えることがなかなかできません。

「責任感」が判断を狂わせる

もう1つは「責任感」です。自分の仕事として「田んぼや水路」、「施設や資機材」のようすを見に行く人たちです。自分が役割を担っていたり、使命感に駆られたり、不利益を避けたりするために見に行くわけですが、これはかなりやっかいです。

水門
写真=iStock.com/Cuckoo
※写真はイメージです

まず、責任感が強い人々は、一般的に、意志が強く、頑固で、完璧主義で、一貫性を持って行動しようとします。また、強い責任感や使命感を持っている時には、ストレスがかかって「ハイ」な状態になります。

さらに、人は、被害や損失が出るという「失う」ことに敏感で、被害や損失を避けたいあまり、合理的ではない選択をしてしまうということがあります。行動経済学に詳しい人は、プロスペクト理論における損失回避性のようなものだと理解してください。

これらの要素が原因となり、冷静さが失われて視野が狭くなります。そして先ほどのバイアスがあわさって、身の安全についての適切な判断ができなくなるのです。

「役割を果たさなければならない」、「今対応しないと被害や損失が拡大して、今後の仕事の死活問題につながる」という「正論」の中で、自分自身だけでなく、周囲の人々も止めづらくなります。衝動的に飛び出してしまったり、「危ないからダメ」と言っても「そんな非常事態だからこそ行くんだ」と家族の引き留めにも耳を貸さなかったりするケースが発生してしまうのです。

「事前計画」「最新技術と制度」「周囲の引き留め」の合わせ技がいい

「好奇心」パターン、「責任感」パターンのどちらであっても、命を落とすことは、本人にとっても大打撃ですし、救助・捜索活動をする人たちの仕事を増やし、命の危険にさらします。人の行動を変えることはなかなか難しいですが、危険な行動を減らすための危機管理のヒントとして「事前計画を作る」、「最新技術と制度を導入する」、「本番で周囲が引き留める」の3つを紹介します。

実際に風雨が強くなって、ひとたび「好奇心」や「責任感」を持ってしまうと、それを「無くす」「打ち消す」ことはなかなかできません。ですので、事前計画を作って行動のルールをあらかじめ決めて、ルールによって自分自身の行動を抑制させることが効果的です。