「昭和型指導」では子どもの可能性を潰してしまう
アマチュア選手が高額なラプソードを自費で購入することは難しいが、今は気軽に動画が視聴できる時代。YouTubeでは名選手の動きを繰り返し確認することができ、有料でもおかしくないレッスン動画が無料で配信されている。チームの指導者の教えに偏ることなく、多くの技術を目にすることができるようになった。ある中学野球の指導者はいう。
「昔は自分の指導が絶対というところがありました。でも最近では、例えばチーム内で上から叩くという打撃方針であれば、個人では下からすくい上げることも学びます。両方できたほうが、上のステージに進んだ時にケースバイケースで柔軟に対応できるからです。左で打ってみたい、投手をやりたいなど、子どもたちの意見を聞いた上で、とりあえずやらせてみるなど、可能性を潰さない指導を心がけています」
かつては、一人の指導者が定めた方針に従うことが当たり前とされた。「バテる」などの理由から水を飲ませずに千本ノックを行うなど、非科学的な練習法は日常茶飯事。大学まで野球を続けた筆者は、裸足でグラウンドを走らされ、足の裏が血だらけになったこともある。
ただ、動画で“もう一人の指導者”に出会える機会が増えた現代において、指導のあり方も変化してきた。精神論や根性論はもはや過去の遺物となり、指導者もまた、日々更新を繰り返す動画以上のアップデートが求められている。
金メダル20個だったパリ五輪を超えるか
多くの選択肢を可能にする動画から得られるメリットは計り知れないが、デメリットもある。ある学童チームでは、大谷の打撃スタイルに影響されて、構えから左脇を大きく空けてアッパースイングをする子どもたちが多くいるという。同チームの監督が困り顔で打ち明ける。
「あの打撃フォームは、大谷選手のように体が大きく、力があって初めてできるのであって、野球を始めたばかりの子どもたちができるものではありません。ただ、保護者の意向もあって、頭ごなしに否定することもできず……。変な癖がつく前に直したいのですが、なかなか難しいという現状もあります」
押しつけない指導が求められる中で、その選手にとって合わない技術であれば、しっかりとコミュニケーションをとりながら指摘、修正できることが、令和の指導者の役割といえる。
世界中が熱狂したパリ五輪は11日に閉幕した。日本が獲得したメダルは金20、銀12、銅13。次回2028年ロサンゼルス五輪では、野球、ソフトボール競技の復活が決まっている。スターや金メダリストに触発された若き世代が4年後、どういったパフォーマンスを見せてくれるのか。楽しみはつきない。