男子バレーボールの石川祐希選手には、「ターニングポイント」と語る2つの試合がある。それぞれどんな学びを得たのか。石川選手の自叙伝『頂を目指して』(徳間書店)より、一部を抜粋・再編集して紹介する――。
バレーボール男子準々決勝・イタリア―日本。イタリアに敗れ、悔しそうな表情の石川祐希=2024年8月5日、フランス・パリ
写真=時事通信フォト
バレーボール男子準々決勝・イタリア―日本。イタリアに敗れ、悔しそうな表情の石川祐希=2024年8月5日、フランス・パリ

ベスト8を目指して戦った東京五輪

2021年7月24日。無観客の中で僕たちは東京オリンピックの初戦、ベネズエラ戦を迎えた。

グループリーグは6チームずつ2組に分かれ、それぞれの上位4チームが決勝トーナメントへ進出する。

ベスト8を目標に掲げる僕たちにとっては、すべての試合が大切だ。だが、その中にも何が何でも絶対に勝たなければならないという試合があった。

それがグループリーグ最終戦のイラン戦だった。

とはいえ、まずは緊張をともなう初戦に勝つことができるかが重要だ。

たしかに、このチームでオリンピック経験者は清水邦広選手だけだったけれど、みんなやるべきことをやってきたという自信に満ち溢れ、不安を抱くことはまったくといってもいいほどなかった。

ベネズエラ戦では、最後の得点を、途中出場した藤井直伸選手と李博選手のBクイックで決めて3対0のストレート勝ち。

幸先よく1勝目を手にした僕たちは、次のカナダにも勝利した。

続くイタリア、ポーランドには負けたけれど、日本、イランともに2勝2敗で迎えた最終戦。最初の想定どおり、僕たちにとって最大の関門を迎えた。

1セット目の序盤から両チームは激しくぶつかり合った。互いの長所を出し合い、サーブで攻め、渾身のスパイクを放ち、ブロック、レシーブで応戦する。

1対2とイランに先行されながらも第4セットを日本が取り返し、15点先取の最終セットを迎えた。

日本のサーブから始まる第5セット、最初にサーブ順が回ってくるのが僕だった。考えていたことは1つだった。

「攻めるしかない」

トスの高さ、ヒットのタイミング、すべて完璧に近いかたちで放ったサーブは、2本続けてサービスエースになった。

絶好のかたちで始まった最終セットを、最後は西田選手のスパイクで15対13で競り勝ち、フルセットで勝利した日本が準々決勝、ベスト8進出を決めた。

イラン戦はまぎれもなくグループリーグで最高のパフォーマンスを発揮した試合だった。

イランの主将はシエナでもともにプレーをしたサイード・マルーフだった。

試合中は冷静に表情を崩すことがないマルーフが、日本戦で敗れたあとには泣いていた。決して大げさではなく、オリンピックは本当に、人生をかけた戦いだった。