「AIですべて解決」とはならない

MLBでは2026年からAI審判を導入する。

この背景には、全30球団の本拠地球場に「ホークアイ」を基幹とするトラッキングシステムが配置され、投球、打球だけでなく攻守の選手の動きもオンタイムで捕捉できるデータ解析ツール「スタットキャスト」が完成したことがある。

これは基本的にサッカーやテニスの「VAR判定」と同様の技術で、高速で移動する投球、打球、選手の動きなどを、人間の目では捕捉できないレベルで記録し、瞬時に判断することができる。

サウジ・プレミアムリーグの試合で活躍するビデオ・アシスタント・レフェリー
サウジ・プレミアムリーグの試合で活躍するビデオ・アシスタント・レフェリー(写真=Niko4it/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

このように書くと「人間の審判の出来が悪いから、AIに置き換えるのだろう、さっさと人間の審判をやめてAIにすればいい」と言う人が出てくるが、そうではない。

AI技術の導入は、高度な判断が求められる現代のスポーツにおいて、審判の正確なジャッジのための「判断材料」を提供するために行う。

高度なAI技術は、競技について十分な知見を有する審判が使いこなすことで、いきてくるのだ。AI技術の導入後も、試合のジャッジを審判が行うのは変わらない。

NPBでも今季から全12球団で「ホークアイ」が導入されたが「スタットキャスト」のような12球団を統合したシステムの構築はまだ先になるだろうが、早晩、AI技術を導入することになろう。

つまるところ贔屓のチームだから批判する

そもそも、なぜ審判を批判するのか。多くの人は「公明正大なジャッジをしてほしい」と願って、審判を批判しているわけはない。

審判のジャッジを批判する人の大部分は「自分が贔屓にするチーム、選手に不利な判定をされた」ことから批判しているのだ。

例えば、自分の贔屓のチーム、選手に有利になるような「疑惑の判定」があったときに、これらの人は「黙っている」あるいは「ラッキー」とか「儲けた」とか言う人がほとんどで「おかしいじゃないか」と声を上げる人がどれだけいるだろうか。

本当にそのスポーツの健全な発展を願って審判を批判しているわけではないのだ。

こうした人の多くは「人間の審判をクビにしてAI審判にすべき」と言っているが、AIが完全導入されたとしても、際どい判定で、贔屓チーム、選手に不利なジャッジになれば「機械に何がわかる」「AIで人間の動きがジャッジできるはずがない」と、文句を言う対象が変わるだけだ。