政府の首を絞める「負の連鎖」ができてしまった

しかしながら、異次元金融緩和を続けすぎた結果、日本銀行のバランスシートが傷んでしまっていたため(図表を参照)に、機動的な金利政策が取ることができないと、わたしは脱稿時点で考えていた。その不安が的中してしまった。

出典=『文藝春秋と政権構想』(講談社)

後に詳述するが、金利を1%上げると日銀の当座預金に対する利息負担は5兆円にもなる。同時に、巨額の借金がある日本政府も国債の利払費が増える。すなわち、政策金利を上げることは日銀のバランスシートにも、政府の財政にも多大な影響を与えることになる負の連鎖の構図となってしまった。共に異次元金融緩和の副作用である。

結論からいえば、日銀による、米国FRBのようにインフレに連動する形で金利を機動的に上げ下げしていくといったオーソドックスな金融政策の選択肢が取りにくくなってしまったのである。

その状況下で植田日銀は、アベノミクスのせいで壊れかけた金融調整の仕組みをなんとか維持すべく懸命の努力を重ねていることは評価できる。今回の政策転換も事前にメディアにリークして、情報を浸透させてから解除するなど、マーケットへの配慮を重ねている。しかし、そもそもこの一本道を両脇の崖に堕ちないようにコンロールしていくのは至難の技なのである。

オフィス街の電光掲示板に掲示された株価を見たビジネスマンの男性
写真=iStock.com/chachamal
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「金利が付いた」と言っても程度は微々たるもの

ざっくり言えば、舵を切ったとはいえ、肝心要の国債買いオペはまだ月6兆円規模で実施(2024年6月20日現在)しており、植田総裁は金融緩和は今後も続けると明言していた。そうせざるを得ない事情は痛いほどわかる。いまの日本をとりまく金融状況についてお復習さらいしておきたい。

第一に、「金利が付いた」と言っても、無担保コール翌日物(金融機関同士で一日で行う取引)が0.1%に届かないのである。ゼロ金利と大差がないというと語弊があるかもしれないが、日米の金利差を考えると、10年物米国債の金利が4.4%を超えている以上、その差が縮まらない。マーケットはそこを見越しているのではないか。

第二に、日銀は舵を切っても大きくは切れないことがバレてしまった。何度も指摘しているが、日銀は1%の金利上昇で当座預金に5兆円もの利息を付けなくてはならなくなるから、大打撃だ(利上げで増える日本国債の利息は相対的に微々たるもの)。