脳は耳に入った言葉を「誰が言ったのか」関知しない

さらに、私たちの脳には「言葉を『誰が言ったのか』は関知しない」という特徴もあります。つまり、耳に入った言葉に対して、それを発したのが自分なのか、目の前の人なのか、それとも見ず知らずの第三者なのかを、脳は関知せず一つの音声データとして処理をするのです。

たとえば、近くにいる自分とは何の関わりもない赤の他人が、マイナスの言葉を発している(怒鳴っている、悪口を浴びせているなど)状況に出くわし、その言葉をたまたま耳にしたとします。そのとき、あなた自身はその人とは無関係であるにもかかわらず、あなたの脳は自分に向けて発せられた言葉と錯覚して受け取ってしまい、ネガティブな感情になってしまうのです。

逆に、あなたが会社のある部署のリーダーだとして、自分の部下に「なんでできないんだ!」と叱責したとしましょう。すると、その「なんでできないんだ!」という叱責の言葉は、近くに居合わせたほかのメンバーの耳にも入ります。すると、その言葉を耳にしたメンバー全員の脳に、過去に自分がその言葉を言われたときのマイナスの記憶と感情が呼び起こされ、結果としてチーム全体にネガティブな空気がまん延してしまいます。

それだけでなく、「なんでできないんだ!」という言葉を発したあなた自身も、自分の耳でその言葉を聞くことで、さらにネガティブな感情を高めてしまうのです。

負けても「よっしゃ!」と喜んでみる

このように、私たちは自分が口にした、あるいは周囲から聞こえるネガティブな言葉によって、知らず知らずのうちに、心の振り子がマイナスに振れた状態になってしまうわけです。

では、心の振り子をプラスに振るにはどうすればよいのでしょうか?

答えは簡単で「逆」のことをする、つまりポジティブな言葉で、脳内にプラスのイメージや感情を呼び起こせばよいのです。

「あ、今、気分が今ひとつ上がらないな」と思ったら、口先だけでもよいのでプラスの言葉を口にしてみる。普段から、事態や状況を問わず、このようなプラスの出力を心がけると、脳が勝手に肯定的な錯覚を起こし、心をポジティブな状態にセルフコントロールすることができるわけです。

このような心のセルフコントロール術として、私がメンタルサポートをする方々に、最初に実践してもらう「プラスの出力」のワークがあります。

吉岡眞司『強いチームはなぜ「明るい」のか』(幻冬舎新書)
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2人1組で、ジャンケンをします。勝った場合はもちろんですが、負けても、あいこでも、腕を突き上げながら大きな声で「よっしゃ!」と叫んで喜ぶのです。

「負けたのに『よっしゃ!』はおかしいのでは?」

と思うでしょう。でも、いいのです。

この「プラスの出力」での重要なポイントは、たとえ論理的につじつまが合っていなくてもかまわないということです。言葉そのものの意味はさておき、大きな声でプラスの状況のときに発する言葉を口にし、脳に届けることでポジティブな感情を呼び起こすことができるのです。

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