公立中学校の職員1名が「8割を負担」した判例

過去の行政の実例では、近年は、教員側に5割の負担をさせるものが多いですが、より客観的なのは、プールの水の溢水が直接問題になった事例に対する裁判所の判断です。

このような事例について最高裁は今のところはなく、地裁の裁判例がわずかに存在するだけにとどまります。とはいえ、行政が実際にどうしてきたかよりも、法的にはより客観的な判断といえる地裁の裁判例を丁寧にみていくことによって、今後のプールの水の溢水問題を考える必要があります。以下、判例集等で公表されている2つの裁判例をみていきましょう。

スイミングプール
写真=iStock.com/VTT Studio
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1 公立中学校の職員1名に損害の8割を負担させたケース

1つ目の裁判例は、結論として、公立中学校の職員1名に損害の8割(約55万円)を負担させたというものです(東京地判平成9年3月13日判例地方自治168号46頁・小金井市学校プール溢水事件)。

この事例では個人1人だけに8割もの負担を負わせていますので、個人の賠償責任が比較的重たいケースだといえます。

ただし、このケースでミスをしたのは、教員ではなく、プールを含む学校施設の管理業務をメインで担当している職員(施設管理員)です。しかも、他の施設管理員からプールの注水状況を確認してくださいと言われ、他の業務もほとんどなく容易に確認できたにもかかわらず、単にその確認を忘れてしまっていたという重大なミスをした(重過失のあった)ケースなので、職員個人の賠償責任が重たくなっていると分析できます。

ですから、この裁判例を教員がミスをした場合に当然に用いるというのは不適当です。また、この裁判例では、茨城石炭商事事件判決⑧の「加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度」という点が殆ど考慮されていない(軽視されている)ものと考えられ、例えばダブルチェックの体制などプールの溢水防止策が殆ど講じられていなかったにもかかわらず、職員1人だけに8割もの負担をさせたことには疑問が残るものといえます。

以上のことから、この裁判例をあまり一般化するということはできないでしょう。