当事者から話を聞く、一次情報源に迫るといっても、電話は駄目です。最近、新聞記者やテレビ・スタッフの取材力が落ちたのは、携帯電話のせいだと思う。政治家の携帯に電話して取材した気になっています。携帯電話は直接本人と繋がるから、当事者から取材した気になってしまうのでしょう。しかし、電話なんかで政治家が本音を言うはずがない。 取材はフェース・ツー・フェースでなければ駄目です。話を聞くなら、相手のツバがかかるぐらいの距離でなければ本当のことは聞き出せない。互いに話していて腹が立ったら殴れる距離です。

田原総一朗流「情報収集術」
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田原総一朗流「情報収集術」

ある人が抱えている本音や情報を聞き出すには、やはり相当の時間がかかります。ロッキード事件で知られる元検事の堀田力さんに「容疑者をどうしたら落とせるのか。どうやって吐かせるのか」と聞いたことがあります。そのときの答えは、「相手に惚れて、惚れて、惚れぬいた瞬間に落ちる」というものでした。

だが、強盗殺人犯に惚れることができるか。堀田さんは「何もしない人間より殺人を犯してしまった人間のほうが、どこか魅力がある」と言うのです。やむにやまれぬ動機や狂気を抱えているぶん、人間として掘り下げ甲斐があるということでしょう。

じつは、私も取材相手から本音を引き出すコツは相手に惚れることだと思っています。私には嫌いな人間というものがいません。世間から叩かれている人や独裁者でも、問題の人物だからこそおおいに興味を持って、そのパワーの源や思考回路、魅力を知りたくなる。こちらがそういう姿勢で臨めば相手も次第に好感を持ってくれ、互いにどんどん好きになっていきます。そういう関係になった瞬間にポロッと本音が出るのです。

1日平均5~6人と会う私は「動く交差点」

私は自分のことを「情報の交差点」だと称しています。しかも、「動く交差点」だと。私は嫌いな人がいないし好奇心が強いからか、堀江貴文や鈴木宗男など拘置所に入ったような人とも、今も付き合っています。だから、さまざまな人が私という交差点を通るのでしょう。

企業の経営者に会うときは、事前に必死に勉強します。手に入るかぎりの資料に目を通す。その人自身について書かれたものやインタビュー記事、企業や業界の現状等々。質問する側のレベルが低ければ、話し手もそのレベルの話しかしてくれません。情報の獲得にはギブ・アンド・テークも必要。相手に、「この人間ならこういうレベルまで話し合ってもいいな」と感じさせる知識や情報を見せないと、深い話はなかなか出てこないものです。