変化の激しい世界において、ビジネスを成功させるには何が必要か。起業家のポール・ホーケンさんは「製品やサービスを製造したり顧客の元に届けたりするのに、いかにして『違い』を創造できるかが成功への鍵となる。市場の声に耳を傾けて即座に対応できるスモールビジネスが競争優位に立つことは間違いない。大企業なら何もかもわかっていて答えもすべてお見通し、という誤った考えがはびこっているが、実のところはその正反対である。大企業がスモールビジネスから学ぶことは多い」という――。

※本稿は、ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

さまざまな家電製品
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規模はもはや優位性にはならない

工業化社会における統制の取れた中央集権の製造プロセスは、規模の大きさを必要とした。そしてこの規模の大きさは、同時に画一性を求めた。マス・マーケットの誕生である。

ある本によれば、工業化社会の始まりは次のようなものだった。

ある職工が、ふと気づいた。もう羊を飼う必要はない。糸なら買えばいい。おかげで職工は土地に拘束されることなく、織物の生産に没頭できるようになった。

近代の工業化というものは社会全体が同じ製品を求めること、少なくとも、買いたいという誘惑に駆られることがその出発点である。

そのため、近代企業は生産手段の標準化のために生まれたといえる。企業の持つ窮屈な制限やしきたり、官僚制、マーケティング・スキーム(計画)はすべて、均一の商品を大量に生産する目的に由来する。

消費者サービスの低下は、ひとえに「顧客は企業の都合に従うべきである。逆ではない」という企業サイドの思いが原因だ。

こんにちのマス・マーケットと大量生産からの移行の流れは、万人に受け入れられるビジネスが難しくなったということを意味する。これまでと違い、ワンサイズで全員を満足させることはできない。個々の製品・サービスごとに明確な違いが必要だ。