組織的行動は変化を検証する

本来、起業家的行動と組織的行動は共に必要なものだ。互いを補完し合う。起業家精神は変化を生み出す。組織的行動は変化を検証する。

この点について、ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)の事例を見てみよう。同研究所はゼロックスによって設立された、シリコンバレーの調査機関である。

未来の情報アーキテクチャー(構造体)を見極める、そしてそれに基づいた未来のオフィスを発明することを目的とする。

スタンフォード大学の近くに位置するPARCは、当時芽生えたばかりのIT分野に集う俊英たちが続々吸い寄せられてくる魅力に満ちていた。1974年、PARCは最初のパソコン「ジ・アルト」を発明した。

ラリー・テスラーと同僚はグラフィック・スクリーン、文字フォント、アイコン、重ねられるウィンドウ、ポップアップウィンドウ、お絵かきに使うペイントプログラム、そして、マウスを創り出した。

あなたはいま、アップルコンピュータの有名なマッキントッシュを思い浮かべたかもしれない。でも、Macではない。Macになってもおかしくなかったのだが……。そう、いまからそのあたりの秘話を話そう。

ビジョンに沿って、Macを創ったジョブズ

スティーブ・ジョブズがゼロックスPARCを訪ねたのは1979年のこと。彼はアルト・コンピュータにマウスがついているのを目にした。

ラリー・テスラーの言葉を借りれば、ジョブズは「何か叫びながら、部屋中を飛び跳ねて回った」。ジョブズは「どうしてこれで何かしないんだい?」と繰り返した。

つまり、こういう意味だ。「君が何かしないんだったら、ぼくがやってしまうぜ」

PARCスタッフの、パソコンを作って売り出そうという具申にもかかわらず、ニューヨーク州ロチェスターのゼロックス本社は、そんなリスクを冒すことはできないと突っぱねた。

ゼロックスの重役たちにとって、ちっぽけなマシンごときに「賭ける」ことなどできなかった。自分たちのいる世界の「外」は、見えていなかった。

テーブルの上のiMac
写真=iStock.com/Armastas
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スティーブ・ジョブズにとって、そのMac風のマシンこそが賭けるべき対象だった。楽しく、幼稚園児からプロの作家まで、あらゆる人にとって使いやすく、みんなが欲しくなるコンピュータ。これが答えだった。ジョブズは人を見ていた。

ゼロックス本社は組織を見ていた。仮にそのときゼロックスがマーケット・リサーチをしていたとしたら、まず間違いなくコンピュータの開発を控えるような結果が出たはずだ。

当時コンピュータの「マス・マーケット」など存在していなかったのだから。しかし、そもそもそんなマーケットなど、存在し得たんだろうか?

人はコンピュータそのものを知らなかった。コンピュータと聞いて連想するのは、せいぜい宇宙ロケットのプログラムや航空機チケットの予約システムくらいだった。

しかし、スティーブ・ジョブズには未来がくっきり見えていた。そのビジョンに沿って、やがて彼はMacを創ったのである。