スモールビジネスは変化と差異が命

ここでしばらく経済を横に置いて、生物生態系、エコシステムをイメージしてほしい。二つの生態系が出会う場所――森林と平野のように――では、いずれの系にも属さない小さな場所がある。

植物も動物も、独自の生態系になっている。境界地域である推移体(エコトーン、ecotone)では、そこでしか生きられない、既存の価値では規定できない辺境の種が生息している。

動物の餌になるわけでも、朽ちた後、腐植土として森林の土壌に還るわけでもない。あたかも、二つのより大きな生態系から恩恵を受けているかのように生きている。

ところが、二つの生態系のうちの一つが突然、たとえば疫病の流行や気候の急速な変動などでダメージを被ったら、境界全域が生態系のバランスを保つような働きをする。

以上、本来はもっと長い話を単純化して述べた。大事なのは次のことだ。

「変化、意味ある変化は常に辺境、境目から生まれる」

経済も同じだ。経済の革新は多くがカルチャーの境目からやってくる。起業家精神の発露によってもたらされる成長、ぼくはこれを「内なる差異化」と呼んでいる。

MIT(マサチューセッツ工科大学)のリサーチャー、デビッド・バーチは、大組織が小さくなることから連想して「原子化」と呼んでいる。

「フォーチュン500」企業たちがタフな国際市場の中で石油、鉄鋼、車、コンピュータといった品目で厳しい戦いをしているのと同時に、他方ではますますスリムになり、より競争力を高めている人たちがいる。

ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

数百万ものスモールビジネスだ。彼らは、大企業からのスピンオフ(独立)、在宅ビジネス、専門サービス、小ぶりの商店、デザイン会社、独自技術を生かした専門下請け工場などだ。

この大と小の共存共栄こそが、経済と文化が健康を保つ秘訣になっている。いつの世にもスモールビジネスが新しく生まれる理由はまさにここにある。

大企業は安定と画一性を基にするが、スモールビジネスは変化と差異が命だ。この変化の激しい世界において、大企業がスモールビジネスから学ぶことは多い。

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