よいも悪いも、好きも嫌いも、一切忘れる

両忘りょうぼう」という禅語があります。

よいも悪いも、好きも嫌いも、一切忘れなさい、という意味です。

白か黒かという二元論ではなく、ひとつの価値観にとらわれない生き方をすれば、見えなかったものが見えてきます。

あなたが、「これが正しい」と思っていることは、ほんとうに正しいでしょうか。大前提として、時代や場所によって正解は違います。それを冷静に受け止めることが大切です。

今、ダイバーシティ(多様性)を担保することが企業の常識になっています。

ダイバーシティとは、さまざまな民族、性別、性的指向など、人々の多種多様なバックグラウンドのことです。これらの違いを認めあい、尊重しあうことです。

意見の違いがあっても、徹底的に相手をやり込めてはいけません。相手のいいところを素直に認める懐の深さが大切です。

仏教は「個の尊重」をテーマにしており、ダイバーシティの思想と親和性が高いと思います。

自分の健康管理をできることが大切な理由

自分を大事にする人は相手も大事にできる――この逆はない

人より先に行きたい、という気持ちは誰にでもあります。

通勤で道を歩いていても、とくに急いでいるわけではないのに、前を歩く人を追い越そうとちょっと足早になってしまう。

私たちは生まれたときから競争社会を生きているので、人より先に行きたいという気持ちが自然に植え付けられているのだと思います。

だから、人に後れを取ってしまうと心が揺らぎます。自分がダメ人間のように錯覚し、ひどい場合には自己嫌悪に陥ってしまう人もいます。

「ゆずる」を本書のテーマにしたのも、人より先を目指すより、競争から一歩離れて、お先にどうぞの気持ちをもてば、自分をもっと好きになれることを知ってほしかったからです。

自分を好きになれる人は、人も好きになれる人です。何かを好きになると、必然的に好きなものを大切にするようになります。

屋外で談笑する3人のビジネスパーソン
写真=iStock.com/Rossella De Berti
※写真はイメージです

たとえば、自分を好きな人は「健康管理」を大切にしています。忙しいからといって昼食もとらずにがむしゃらに働いたり、連日飲み会を繰り返していれば体調を崩すのは当たり前です。

若いころは体力でカバーできても、年を重ねていくうちに回復力が鈍り、疲れがたまっていきます。ひいては大きな病気になりかねません。

忙しくても、昼食をしっかりとる、残業を連日つづけない、休肝日をつくるなど、自分の健康管理をしっかりとしてください。

自分の健康管理ができる人は、他人に対しても自分の経験を踏まえて、「そろそろ休憩を入れたほうがいいんじゃないか」、「残業がつづいているから、今日は定時で帰ったほうがいいよ」という気づかいができます。

いっぽうで、自分が無理をしている人は、部下がヘトヘトになっていても「まだ頑張れるだろう」と平気で言ってしまいます。そして部下が倒れてしまってから、「えっ、なんで?」と驚きます。