選挙期間前の「事前活動」は禁止されているが…

しかし、現実の問題として、これでは何の選挙に誰が出馬するのかを伝えることができない。そのため、選挙公示前に配布されている政治家のビラは「○○が○○市政に挑戦!」とぼかした表現を記載することになる。これでは市長選挙に出るのか・市議選に出るのかをビラを見ただけでは分からないが、そこは「察してくれ」ということになる。

このような選挙期間前にバラまかれるビラは「政治活動ビラ」と呼ばれる。しかし、事務所によっては隠語として「事前ビラ」と呼ぶこともあり、何も知らないボランティアスタッフがSNS上で「今から事前ビラを配布しに行きます!」などと何の配慮もなく隠語をそのまま使ってしまうこともある。しかし、あくまでも選挙期間前の事前活動は禁止されているので、そのような呼称を使うこと自体が危険な行為だ。

また、上述のように3要件が揃った事前活動の文書違反は明確な物証があるため逮捕されやすいが、確かな物証が伴わない街頭演説やハコモノ演説などでの発言はスルーされている。ただし、近年では街頭演説等が動画に撮られていることも多く、それらの動画が物証として事前運動の証拠に当たるか否かは今後判例が積み上げられていくことになるだろう。

ポイント② 「確認団体」という“ナゾ団体”の活動とは

第二に、確認団体、と呼ばれる謎の団体の活動について触れたい。

この確認団体の活動で有名なものは、選挙運動期間中に配布される「謎の人型シルエットが記載されたビラ」であろう。あのようなコナン君の犯人または『かまいたちの夜』の人型シルエットが記載されたビラはどうして作られてしまうのだろうか。

「名探偵コナン」の"犯人"とのコラボケーキ(中国、2023年11月19日)
写真提供=新華社/共同通信イメージズ
「名探偵コナン」の"犯人"とのコラボケーキ(中国、2023年11月19日)

確認団体制度とは、一定の要件を満たした候補者が特定の政治団体を一つ指定し、その政治団体は選挙期間中に特別な政治活動を実施できるようにする、という制度だ。簡単にいうと、選挙管理委員会に各候補者が正式なダミー団体を指定し認めてもらうというトンデモ制度である。

ただし、確認団体は、特定の候補者を宣伝するための活動はできないという縛りがかかっている。そのため、確認団体の名称には特定の候補者名を入れることもできず、そのキャッチフレーズなどを上手く組み込んだ文言などが用いられている。当然、その確認団体が配布するビラには候補者の写真を使うこともできないので、候補者を型取りした人型シルエットが記載されることになる。これを知らないと怪文書にしか見えない気持ちが悪いビラが完成したに過ぎない。