「民泊市場は今後も右肩上がりが続く」

政府が掲げる2030年の訪日外国人の目標は旅行者数6000万人、消費額15兆円、現在の2倍以上の市場規模を想定している。観光立国へ舵を切るこれからの日本で、会社員でも取り組める副業として注目されているのが民泊だ。

ノスタルジックな日本の古民家
写真=iStock.com/Actogram
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今回話を聞いた、大阪・東京・地方で民泊を運営する3人はいずれも、「民泊市場は今後も右肩上がりが続く」と強気の見解だ。訪日外国人数が倍増するとしても巨大資本が手がけるホテルが滞在先として選ばれそうだが、個人の民泊に勝機はあるのか? 東京を中心に750件の民泊物件の清掃を受託し、自らも40室の民泊物件を運営する民泊清掃R社長に尋ねた。

「ホテルの客室は2人で泊まる前提でつくられており、3世代合同の家族旅行やグループ旅行のような団体客は部屋が増え、その分宿泊費もかさみます。一方、民泊なら10人での宿泊も可能なので宿泊費が節約できます。同じリビングでお酒を飲みながら映画を見るなど全員での団欒が可能ですし、ホテルにはないキッチンも使えます。ホテルが取りこめない需要を満たす物件ならホテルと競合しません」

さらに将来の供給過剰に対する見解も付け加える。「会社員では太刀打ちできない資金力と情報力を有するホテルグループが今もホテルを続々と建設している事実は、むしろ今後もインバウンド市場が安泰である証拠だといえます。場所選びと物件選びさえ間違えなければ、今後も負けない状況が続くでしょう」

いい物件を押さえるには民泊代行業者に頼るべき

宿泊客の受け皿が求められる状況が民泊参入の好機をつくる一方、参入希望者の増加により物件探しの難易度は上がっている。大阪の民泊サポート会社「IDEAL」代表の伊藤大輔氏が言う。

「民泊はいかに良い物件を押さえるかで勝負のほとんどが決まります。旅行者がキャリーケースを引いて移動できる距離を考慮すると、駅から徒歩10分圏内の立地が望ましい。さらにベッドがたくさん設置できる広い物件が理想となり、一棟貸しができる戸建てがベストです。しかし、そういった好条件の物件が今はなかなか出てこない。市場がかなり成熟している東京は当然ながら、私たちが民泊を運営する大阪も良い物件に出合うのが難しくなっていると感じます」

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図版作成=大橋昭一

そこで、民泊初心者はまず物件情報の流れを理解する必要があると伊藤氏は付け加える。

「民泊の物件情報は、最初に民泊専門の不動産仲介会社に集まります。次にその仲介会社が抱える上顧客に紹介されます。そして最後に一見客に流れていきます。そのため、個人がいきなり街の不動産屋に行って、『民泊物件を探しています』と言っても、簡単に良い物件は見つかりません。それこそ名刺を配って顔を覚えてもらうなど、仕入れ業者が日々やっているような足で稼ぐ覚悟がないと難しいでしょう。会社員の副業でそこまで労力を割ける人は少ないので、まずは民泊代行業者に物件探しを依頼して、最初の物件を持つことが先決です。1軒オープンさせたことが実績となり次につながります」

物件探しの難しさについてR社長も指摘する。

「東京や大阪といった都心の場合、民泊の物件は転貸が基本となるのですが、民泊可能な物件の需要が増えたことで、もともと一般賃貸のみ募集していたオーナーが家賃を上乗せして民泊可能物件にするケースが増えています。一般賃貸で賃料20万円の物件が、民泊可能となると賃料26万円になるなど、相場の家賃で貸すオーナーがいないのです。いわば足元を見られている状況ですが、都内で最大10人宿泊できる戸建てを借りることができれば、月の売り上げ100万円も狙えます。そう考えると家賃の差額を考慮しても、利益が出れば必要経費と割り切ることもできます」

また、地方に目を向けると、物件探しの難しさには都市部と異なる事情があるようだ。別荘民泊を19軒運営する別荘民泊プロデューサーの羽田徹氏が明かす。

「地方の方たちは自分の物件を不動産ポータルサイトに掲載することに対して極端に抵抗があります。先祖代々の土地建物を手放すことに後ろめたさを抱いたり、すぐに親族や近隣で噂になったりするからです。そのため、物件情報は地場の有力な不動産屋に水面化で集まっている。そういった業者を見つけてコネクションを構築する必要があります」