サラリーマン経営者が日本のメディアを潰している

当時、わたしは彼から直接、聞いていた。

「僕は車に乗っている時間が長いから、ラジオをよく聴いています。ラジオって斜陽だと言われるけれど、黒字にするやり方はあるんですよ。

今、ラジオそのものを持っている人なんていないでしょう。

車で聴いている人もいるけれど、大多数はスマホを使ってradiko(ラジオ放送アプリ)で聴いている。ラジオは地域のものというより、全国放送になっているんです。だから、全国の聴取者が聴きたくなるような番組を作ればいい。

また、音声による情報発信だけでなく、インターネットと連動させて動画や文字情報なども使いながらビジネスの拡大を進めていけばいい。会費制のオンラインサロンを通じてリスナーが番組制作に関わることもできる。

ラジオには可能性しかない。日本のメディア業界、放送局って、サラリーマン経営者が支配していて、イノベーションを生み出すどころか、それを潰してしまっている。僕はニッポン放送を買収して、一瞬、経営者になった時、周りからさんざん言われて結局、手放しましたけれど、今度は思いっきりやりますよ。

スポンサーの獲得にしろ、これまで放送局に営業部はあっても、実際は営業なんてしてないようなものなんです。電通や博報堂が代理店としてスポンサーから広告を集めているだけ。放送局の営業マンが広告を集めているわけじゃない」

V字回復のため、北九州に移住した社長

「僕は自分で営業しますから、年間の運転資金くらいは集めることができます。課題はCM収入以外をいかに考えるか。放送以外の事業収入についてもプランを進めています」

そんな話を聞いてから数カ月後、また彼と会った。

「とりあえず、CROSS FMは3カ月で黒字化しました」

堀江は放送業界からはアウトサイダーとして見られているけれど、経営者としてはテレビラジオを問わず、どの局の経営者よりもプロフェッショナルだ。だから、つぶれる寸前のラジオ局を3カ月で黒字にした。

CROSS FMの本社とスタジオはJR小倉駅前にある。ショッピングモール、セントシティの10階だ。スタジオは放送中で、セントシティのなかにある店舗に買い物に来た客たちが番組を聴いていた。

わたしが話を聞いたのは社長の大出ひとし。ホンダ、丸紅、投資ファンドで働いた経験を持つ。

大出整氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
大出整:上智大学比較文化学部、IMD(国際経営開発研究所)ビジネススクール経営修士。ホンダの海外営業、丸紅航空宇宙防衛システム部、事業再生系PEファンドなどを経てCROSS FM社長を引き継いだ。

「丸紅時代に堀江さんのロケットに投資をしてから、親しくなりました。そして、CROSS FMの全株式を堀江さんと分けることになり、社長を引き受けたのです」

大出が偉いのは経営を引き継ぐと決めたあと、東京の住居を引き払い、縁もゆかりもない北九州に引っ越してきたことだ。朝に晩に小倉城の周辺をランニングしながら、経営、営業、番組企画のすべてに取り組んでいる。ランニングしまくったためか、赤銅色に日焼けしている社長である。