志望理由書のことば
いわき市編の最後に登場するのは、唯一の3年生、福島県立湯本高校普通科の阪田健太郎(さかた・けんたろう)さんだ。阪田さんには昨10月の取材のあと、もう一度、今年の1月に会いに行った。彼が Facebook 上で書いていたことばがどうしても気になったからだ。彼はこう書いていた。
《俺が住んでるのは被災地じゃねえ、四倉だ!》
いわき駅から下り常磐線で2駅目、夜の四ッ倉駅前で阪田さんは待っていてくれた。「健太郎は人が良すぎるから」と笑顔で心配してくれるおっちゃんが営む馴染みの焼き鳥屋へと連れて行ってもらう。道すがら、阪田さんに、あの発言の意図を聞いた。
「テレビで偉い人が被災地、被災地って言ってるの聞いて、なんか違う! と思ったんですよ」
これからそのことに触れていくことになるが、阪田さんは地元四倉を心底愛している。まずは阪田さんに、将来何屋になりたいかを訊こう。
「俺はあれです、大学を出てNPO法人とか、任意団体とか、社会貢献をする第三セクターっていうんですかね、高校生が中心の、若者を使った復興の団体みたいのをつくりたいなっていうのを、すごい思ってて」
入る、のではなく、つくる。
「つくる。大学の推薦入学の志望理由書に書いたのを、今、そのとおりに言っちゃってるんですけど(笑)」
なるほど、焼き鳥屋のおっちゃんが「人が良すぎる」と心配し、「TOMODACHI~」のいわきの仲間たちから信頼を得ている、裏表のない高校生のことばだ。しかし阪田さん、大学を出なくても、そういう団体をつくることはできるのでは。
「その団体で具体的な事業をやるには、いろんな学問をちゃんと認識していったりとか、問題解決の実践知だったりとかがすごい必要だと思うんで。ふつうに受け身の授業とかでわかる力じゃなくて、その実践で身について来る力っていうのがほしいんですよ。『TOMODACHI~』でもすごいあったんですけど。それを大学で学べるところがあったんで、それを学びたいんです。たしかに、高校出たら即就職っていうのも、ちょっと考えてたりはするんですけど」
「TOMODACHI~」のプログラムにあって、学校での「ふつうの受け身の授業」ではやったことのないもの。たとえばどういうものでしたか。
「みんなでアイデアを出し合って、何かひとつのことをやろうって考えて、最後にプレゼンテーションをする。初めての経験でした。こんなに楽しいものなのかと思いましたね」
阪田さんは「TOMODACHI~」以外の場でも、「こんなに楽しいものなのか」と思う体験をしている。
(明日に続く)