新幹線のホームで歌った松田聖子

困るケースはほかにもあった。出演はOKだが、歌手のスケジュールの関係でスタジオに来られない場合である。

そこで生まれたのが、「追いかけます、お出かけならばどこまでも」のうたい文句で有名になった「追っかけ中継」だった。スタジオに来られないのなら、こちらから出かけていけばいいじゃないかというわけである。

コンサートがあるときは、終了後観客にも残ってもらってライブ形式で歌ってもらう。またドラマの撮影があるときには収録スタジオに押しかけて他の出演者の前で歌ってもらう。レコーディング中のスタジオで歌うこともよくあった。いずれも、見ている視聴者は得した気分になる。

しかし、これらはまだ序の口。もっとすごいのは、移動中の歌手に歌わせたことである。

1981年3月26日放送回、「チェリーブラッサム」で第5位に入った松田聖子は、新幹線で移動中。そこで静岡駅で途中下車し、駅のホームで歌った。もちろん衣装ではなく普段着だが、マイクを手に堂々たる歌いっぷりである。

だが歌の途中で発車時刻が迫り、追っかけアナがあわてて松田聖子を車内に誘導する。最後は車内の乗降口のところでの歌になったが、聖子スマイルを絶やさず歌いきる姿はプロ魂を感じさせた。

一方、後ろのほうの一般乗客が「なにが起こっているのか?」という不思議そうな顔で見ているのも面白い。そしてドアが閉まると、ファンらしき人たちも集まってきてホームはプチパニックになったが、松田聖子は車内からにこやかに手を振って去っていった。

映画『カリブ・愛のシンフォニー』製作発表記者会見で写真に納まる松田聖子さん=1984年11月1日、東京プリンスホテル
写真=共同通信社
映画『カリブ・愛のシンフォニー』製作発表記者会見で写真に納まる松田聖子さん=1984年11月1日、東京プリンスホテル

ヤラセ一切なしの「アルフィー犬山事件」

まさに綱渡りである。時代が寛容だったとも言えるが、国鉄(JR)がここまで協力するのもいまとなると信じがたい。

実は松田聖子は、新幹線のホームで歌ったことがほかにもある。そもそも、仕事先から羽田空港に到着して乗っていた飛行機を降りたすぐのところで「青い珊瑚礁」を歌ったのが番組初登場だった。当時の売れっ子ぶりがうかがい知れる。

サプライズのつもりがそうならず、伝説級のハプニングが生まれた中継もある。

1984年12月13日の放送。「恋人達のペイヴメント」で第6位に入ったアルフィーは、愛知県犬山市のファンの家をアポなしで訪れて歌うというサプライズを企てた。ところが、行ってみると当のファンが留守。誰も出ない。

犬も吠え出すなか仕方なくそのまま家の前で歌い始めたが、電気系統のトラブルでカラオケのテープが止まりそうになり、あわててスタッフが手動でテープを回したがうまく再生できず、すべてがグダグダになってしまった。

こうした場合、「サプライズ」とは言いつつ前もって家にはいてもらうようにこっそり交渉していてもよかったはずだ。だがそうしなかった。アルフィーにとってはとんだ災難だったが、見ている側にとっては番組がガチであることの証しでもあった。