「間違い」を減らすには、どうすればいいのか。北九州市立大学の松尾太加志特任教授は「『ミスを減らすために罰則を設ける』は効果的とは限らない。むしろ罰則はミスの抑止より、隠蔽を生んでしまうことがある」という――。

※本稿は、松尾太加志『間違い学 「ゼロリスク」と「レジリエンス」』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

JR山手線 第二中里踏切
写真=iStock.com/kuremo
※写真はイメージです

「罰則を設ければミスはなくなる」ほど単純ではない

エラーを防止する際に安易に考えやすいのは、人間が引き起こした失敗なのだから、人間を何とかすればよいのではということである。ヒューマンエラーは本来であればできたはずなのにできなかったのだから、人間が悪いんだというわけである。

その結果、ヒューマンエラーを起こした人にペナルティを与えるようにすればいいのではないかと考えてしまう。ペナルティがあることがわかっていれば、それが抑止力になって気をつけるから、エラーがなくなるのではないか。

残念ながら、そんなに単純なものではない。人間を悪者にした対策では何も解決しないのである。

「開かずの踏切」の遮断機を上げた保安係

【事例】遮断機を上げざるをえなかった開かずの踏切の事故

2005年に起こった踏切事故の例である。踏切の保安係が列車が接近しているのに遮断機を上げてしまい、通行した人が亡くなった事故があった。現在のほとんどの踏切の遮断機は列車の接近に伴い自動で上げ下げされるが、当時は保安係という人が遮断機を操作している所があった。といっても、目視で列車の接近を確認していたわけではなく、列車の接近情報は機器上に表示されるため、それに応じて操作することになる。

これだけだと保安係が遮断機を上げてしまったことが問題のように思えるが、その背景要因を考えると、彼だけを責めるわけにはいかない事情があった。