「月10万円で足りずに手を付ける」なら「横領」になる
例えば東京都に会社を設立し、報酬月額10万4000円と設定した場合、健康保険料は事業主負担分を含めて月額1万1583円。同時に厚生年金にも加入しなければならず、厚生年金保険料は同額の報酬で月額1万9032円。国民年金が月額1万6920円なので、年金に関してはやや割高に感じたが、それでも健康保険料がかなり安く、魅力的に感じた。
しかし、ここではたと気づき、私は服部氏に質問した。
「例えば私のように、ひとつの業種から月に50万円の収入を得ていたとして、それを法人化し、自身の報酬を10万円に設定したとします。けれども10万円では自分の生活費が足りなくて、あまっている40万円に手をつけてしまうのはマズイのでしょうか?」
服部氏は「それはマズイですね」と苦笑いしながら、こう話す。
「社会保険料が高いから10万円の報酬に設定するのでしょう。けれども、その月に50万円の収入(売上)があったのなら、残りの40万円は設立した法人にプールされていると考えられます。それなのに自ら使い込んでしまったら、広い意味で『横領』になりますね。もしくは税務上、『法人から個人に貸したもの』とみなされ、利息をつけて返済を求められることもあるでしょう。
利益、つまりプールした40万円に対して法人税もかかってきます。自身が一人で会社を作るなら、現在の所得税、住民税、国保料を正確に把握し、法人にした場合の報酬(給料)や法人税を考慮しながら、社会保険料がどの程度安くなりそうか、総合的に考えましょう。税理士や社会保険労務士などの専門家が無料で相談にのってくれる窓口がたくさんあると思うので、法人化したほうがいいか悩む時は、個別にシミュレーションしたほうがいいと思います」
「役員報酬年間600万円」では、どちらが安いか?
例えば私のように、収入(売上)から経費を引いた「所得100%」でないと生活が難しい時。法人の利益をゼロにし、役員報酬年間600万円(年収600万円)としたら、どうだろう。
ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓氏(所属:生活設計塾クルー)が答えてくれた。
「令和6年度標準報酬月額保険料額表によると、月額50万円(年600万円)の報酬で事業主負担分も入れて健康保険料が月額5万7900円です。笹井さんが加入する文藝美術国保は月額4万6800円ですから、それよりも高い。けれども市町村国保の月額6万3333円よりは多少安いですね」
法人化して社会保険に入るメリットとしては、家族を扶養に入れられる、すなわち保険料が一人前で済むこと。市町村国保も国保組合も、配偶者や子ども分は上乗せされてしまうので多少健康保険料が高いくらいであればお得に感じる。加えて健康診断などの給付サービスも国保よりは充実しているだろう。