「医療によって長生きできる」はどこまで信じていいのか

実際、私の患者さんで徘徊する人はかなりの数でいるのですが、家に帰ってこられない(最終的にはみんな見つかりましたが)人はいても、徘徊中に車にはねられた人はいません。やはり怖いので上手に逃げるのでしょう。

だから早いうちから延命治療はやめてくれという意思の表示に、どのくらいの意味があるのかわからないのです。

ただ、一方で、現代医学というのは、所詮は延命治療だという感覚はあります。

たとえば、血圧の薬を飲み、酒をやめ、塩分を控えても、死ぬのが遅れることはあっても、死を避けることはできません。さらに言うと、日本では医者の言うことを聞いた人とそうでない人で、どちらが長生きできるかという大規模比較調査もありません。欧米のデータをもとに医療によって長生きできると言っているだけで、体質も食生活も違うので、どこまで信じていいのかはわかりません。

ということで、私は、これからの食生活とか、生活習慣とか、服薬については、医者が決めるのでなく、自己決定をしていいと思っています。

患者に症状を説明する男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
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お酒もタバコもやめるかどうかは自分で決めていい

たとえば、血圧が高い人に関して、高いままのほうが頭が冴えるという人は珍しくありません。高齢になるほど、誰もが動脈硬化が進み、血管の壁が厚くなるので、ある程度以上血圧が高くないと脳に十分な酸素がいかないからです。

その場合、多少寿命が短くなっても頭が冴えているほうがいいのか、薬を飲んでだるい状態が続くが長生きの確率が高いほうをとるかは(前述のように、これがそれほどあてにならないのですが)、自分で決めることです。

塩分を控えろと言われて味気のないものを残りの人生食べ続けるのか、多少寿命が短くなる可能性があっても、自分の食べたい味付けのものを食べるのかも、自分で決めることでしょう。

お酒をやめるとか、タバコをやめるとかも、自分で決めていいことです。

本当の人生における自己決定というのは、自分が本音で生きたいように生きる自己決定です。