相手も自分も尊重する「アサーティブ・コミュニケーション」

【澤円】コミュニケーションというと、戸田さんは『アサーティブ・コミュニケーション』(日経BP)というご著書を出されています。耳慣れない人も少なくないと思いますが、「アサーティブ・コミュニケーション」とはなんでしょう?

【戸田久実】ひとことでいうと、「相手も自分も大切にした自己主張、自己表現」のことで、ベースにあるのは「相互尊重」です。

【澤円】つまり、相手のいうことに対してただ「イエス」というコミュニケーションではないということですよね?

【戸田久実】会社といった組織がきちんと成果を上げるためには、リーダーなど誰かひとりの意見がつねに正しいとされる状況は好ましくありません。ときには部下の意見が正しいということだってあるのですから、若手であっても自分の立場や経験、能力などを卑下することなく自分の考えをうまく伝えられることが大切なのです。

【澤円】その技術はトレーニングで身につけるのですか?

【戸田久実】ロールプレイングを繰り返すといったトレーニングを行います。そのなかで、自分ではうまくコミュニケーションができていると思っている人にも、フィードバックすることもあります。例えば、「さっきから相手のいうことを全部否定していませんか?」「語調が強過ぎますよ」といった具合です。

赤い目隠しをしたビジネスパーソンたちがさまよい歩いている
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「どうせ聞いてもらえない」という思い込みをなくす

【澤円】つまり、自分ではコミュニケーションが得意だと思っていても、無意識のうちに適切でないコミュニケーションをしている人もいるのですね。

【戸田久実】そういったケースとは別に、自分の無意識によってコミュニケーションに苦手意識を持っている人もたくさんいます。過去の失敗体験などから、「階層が上の人にこういうことはいっては駄目だ」「どうせ聞いてもらえない」「関係性が悪くなるかも」「反発されるかも」といった無意識の思い込みを持ってしまい、うまくコミュニケーションができないケースです。

【澤円】そういったケースではどう対処するのがいいのでしょう?

【戸田久実】無意識の思い込みですから、その思い込みに気づいてもらうことからはじめます。「過去の経験から『どうせ聞いてもらえない』と思ったことはないですか?」といった問いかけをするのです。そうして、「過去の経験がそう思わせているのかもしれませんが、相手が違えば相手の反応も違うかもしれません」「言い方を変えれば違う結果になるかもしれません」と、思い込みを手放してもらうのです。