日本車が格好の標的になってしまう理由

元警視庁外事課の勝丸円覚さんも国産車盗難の実態について自身の経験を基にこう話す。

「2000年代に私が外務省在外公館警備対策官の身分で赴任したアフリカ某国は、日本で盗難に遭った自動車の受け入れ地になっていました。日本で盗んだ車をヤードでばらして、部品の状態で中東のドバイを経由してアフリカのモザンビークとかケニアに揚げて部品の状態から組み立てるという流れをつかんだんです」

勝丸さんは収集した情報について警察庁を通じて各県警に通報。その結果、自動車盗難に関与したとして東海地方のヤードが摘発されたという。勝丸さんは盗難後の巧妙な隠蔽工作について明かす。

「日本から盗んだランドクルーザーを3台、同じ車種のものを用意して全部部品にするんですよ。組み立てる時に、この3台からばらした部品を混ぜて組み立てると被害車両が特定できなくなってしまいます。アフリカの一部の国々は車両盗難天国なんで、ひとつひとつの部品がどの車のどこの部品かがわかるようになっていました。日本の車はそこまでやっていないので格好の標的です」

ダーバン港、南アフリカの上空からの景色
写真=iStock.com/michaeljung
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「実行犯は外国人、首謀者は日本人」

先ほど紹介した加藤さんは、自動車盗難の背景について、ロシアのウクライナ侵攻も影響しているのではないかと推測する。

「ロシアへの経済制裁で西側の自動車メーカーが一挙にロシアからいなくなり、部品メーカーも撤退したので部品の流通もストップしているのでしょう。ロシアでは、現代的な新しい車を作ることができなくなってしまったのです」

実際に自動車盗難に関わるのはどのような集団なのか。勝丸さんは捜査経験を基にこう話す。

「関東近郊などに多く点在する、ヤードと呼ばれる自動車解体場が自動車盗難の拠点、隠れみのになっているのは間違いありません。首魁は日本人、盗む車の情報を集める情報屋も日本人、盗んだ車のナンバーをつけ替えるのも日本人、盗みの実行犯も日本人で、解体はアジア系外国人が多く関与している印象です。

日本人じゃないと、住宅街の下見もそうですし、実行も手先が器用な自動車整備の知識か経験がないとできません。一方で、ヤードに出入りする外国人などが盗んだ車を部品として解体しています。役割分担がなされた日本と海外の混成犯罪グループという意味では、一連の広域強盗『ルフィ事件』と構図が非常によく似ています」