人びとはどのサービスをどの程度利用し、その傾向は年々どのように推移しているのか――。プレジデントオンライン編集部がビデオリサーチ社と共同でお届け する本連載。首都圏の消費者を「お金持ち」層(マル金、年収1000万円以上)、「中流」層(マル中、年収500万円以上から1000万円未満)、「庶民」層(マル庶、年収500万円未満)という3ゾーンに区切り、生活動態の分析を試みている。
首都圏在住の男性たちはどこまで身だしなみに気を使っているのか。また年収差によってそれには違いがあるのだろうか。今月はビデオリサーチ社が30年以上続けているACR生活調査から、男性のみだしなみ意識に関する調査を取り上げている。
「足元を見る」という言葉があるが、ここに興味深いデータを見つけた。
図は「高級ブランドの靴をもっているか?」について、ここ7年間の推移をまとめたものだ。
全体としては経年変化を問わず、高級ブランドの靴をもっていると答えた人は15%前後。10人に1~2人は高級ブランドの靴をもっているということになる。
これを年収別に見ていくと、年収1000万円以上のマル金層はダントツに所有率が高く、07年と11年にはいったん落ち込んでいるものの、翌12年にはまた約30%に。たとえば震災後の6月に調査が行われている2011年の場合、前年もっていた高級ブランド靴を捨てたとは考えにくく「もっているということが憚られた」という意識もあったかもしれない。
また、面白いのは年収500~1000万円のマル中層のデータだ。2011年にはむしろ「高級ブランド靴をもっている」と答えた人がマル金層とほぼ同じ22.6%。前年よりもやや上昇傾向にあるのである。
これはアウトレットモールの利用率の増加も手伝ったのかもしれないが、マル中層が他のファッションにお金をかけなくても靴にはお金をかけ始めたという一つの現れであると見てとれる。
ファッション評論家の林信朗氏に、男性の靴に対する意識を聴いてみた。
「男性には女性とは違うコレクション志向があります。まるで自分が軍隊の隊長で、兵隊や武器を揃えるかのように、何かをコレクトする喜びがある。靴というのは時計と同じく、そういう喜びを満たしてくれるアイテムなんです。たとえば紐靴。レースアップシューズひとつとっても、スクエアトゥとプレーントゥは違うというような、微妙なデザインの違いがまったく違う気持ちをもたらしてくれる。それに、靴は身の回りの最高の工芸品でもある。こういう革を使って、こういう手の込んだ技術で作りました、というクラフトマンシップのストーリーを含めて、男性は買うんですよね。女性の靴は外から見てどこのブランドとわかるものが多いけれど、男性の靴は外から見ても何が違うのか、よくわからなかったりする。それがブランドというものに対して男性と女性が求めているものの違いなのかもしれませんね」
実際、林氏が携わるデパートやブランドでも、紳士物のブランド靴は売れているという。
「イタリアのベルルッティ、フランスのバリー、JMウエストンなど10~20万円するような靴のブランドも普通に見かけるようになった。前回のデータで高所得層ほどユニクロ利用率が高いというのがありましたが、ユニクロを着つつ10万円のブランド靴を履くというようなスタイルが当たり前になったということですよね」
男性のファッションにも選択肢が増えたといえるのだろう。次回は男性のファッションセンスに関する意識調査など全般に触れてみよう。
※ビデオリサーチ社が約30年に渡って実施している、生活者の媒体接触状況や消費購買状況に関する調査「ACR」(http://www.videor.co.jp/service/media/acr/)や「MCR」の調査結果を元に同社と編集部が共同で分析。同調査は一般人の生活全般に関する様々な意識調査であり、調査対象者は約8700人、調査項目数は20000以上にも及ぶ。
上智大学外国語学部比較文化学科卒業後、“mc Sister”、“ヴァンサンカン”、“MEN'S CLUB”、“Dorso”、“Gentry”などの男女ファッション誌の編集長を務め、フリーに。クリエイティブ・エージェンシー“TCOB”に所属し、プリント、web、モバイルのエディトリアルを担当。新聞、雑誌などへエッセイも寄稿。