元人事課長「理事長就任中は、かなり暇だった」

澤氏は理事長だった2020年、豊洲市場移転問題に関する告発本『築地と豊洲』(都政新報社)を刊行した直後、多羅尾光睦副知事(当時、現東京都競馬社長)を通じて役職解任を言い渡されたという。2021年6月には『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)を出版し、そのなかで「都庁OB人事のカラクリ」を暴いている。元人事課長の証言なのだからその発言には信憑性がある。

都は条例によりOBの情報を提供しているに過ぎず、人材の採用は外郭団体の自立性に基づくという立場だが、職員の人件費にも充てられる多くの事業費を都が出資している以上、外郭団体は首根っこを捕まれ、実質的に人事権を握られている状態だと澤氏は主張する。

2024年4月2日付毎日新聞で、澤氏は、「都民に怒られるかもしれないが、外郭団体の理事長就任中は、かなり暇だった。都は外郭団体の幹部にOBを推薦する理由として『公務員時代の豊富な経験を生かせる』といった説明をするが、能力はそれほど重要でないポストだと感じた。問われるのは都を裏切らないか、忠誠を誓うかだ。有能なプロパー職員を幹部へ出世させたり、公募で民間人を登用したりした方が、納税者の理解は得やすいだろう」とも述べている。

「培った知識・経験を社会の様々な分野で活用することは、社会の要請に応えるものでもあり、有意義」という都の主張には疑問を抱かざるを得ない。

また澤氏は、退職が近づくと、副知事が幹部に天下り先を告げに来ると指摘する。意向調査はなく、「阿吽の呼吸」で続いているというのだ。どこにも書いてはいないが、65歳まで天下りポストを用意する慣習があり、副知事経験者は別格でそれ以降も用意されているという。

豊洲市場
写真=iStock.com/kanzilyou
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天下りのコストは誰が支払っているのか

筆者はこうした天下りを以前から問題視してきた。その主な理由は、都内の高額な鉄道運賃と深く関連しているとも考えるからだ。

筆者はプレジデントオンラインで「『東京の電車賃は安い』はウソである…乗り換えのたびに『初乗り運賃』がかかる首都・東京の大問題」(2023年1月16日)と題する記事を書いた。都内には18社が路線を持ち、複数社にまたがって移動する場合は、基本的に各社の初乗り運賃を含む運賃が単純加算され、高額になることを指摘した(乗り継ぎ割引制度も一部存在している)。また天下りを受け入れている新しい鉄道会社の距離別運賃がJRや既存の私鉄に比べて高いことが多い。

例えば、先日、筆者がJR池袋駅からりんかい線の品川シーサイド駅まで移動したケースで考えたい。

JR池袋駅から埼京線を利用すれば乗り換えなしで行けるのだが、途中の大崎駅から別会社「りんかい線」となる。池袋―大崎駅は13.4キロで210円(切符利用、以下同じ)、大崎―品川シーサイド駅はわずか3.3キロだが280円となり、計490円もかかった。

大崎駅
大崎駅の駅看板(写真=Cheng-en Cheng/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons