「脳トレ」よりも食事内容・方法を工夫する
最近は、「主観的認知障害(SCI)」「軽度認知障害(MCI)」という認知症の前段階があることが知られるようになってきました。「物忘れが増えた」や、「ちょっとした不注意やケアレスミスが目立つようになった」と感じるようなら、これにあてはまる可能性があります。
認知症にならないようにするために、特に見逃したくないのが「MCI」です。MCIは日常生活に支障は出ていませんが、認知機能は低下し始める段階です。MCIから認知症になる割合は、研究によって異なりますが、毎年10%といわれています(注)。
(注)Bruscoli, M. & Lovestone, S. Is MCI really just early dementia? A systematic review of conversion studies. Int. Psychogeriatr. 16, 129–140 (2004).
これは現時点でMCIと診断された人を集めて放置した場合、5年間で約半数が認知症を発症するという計算になります。
逆に考えれば、MCIの段階で適切な対策や治療を行えば、認知機能を改善できる可能性があります。寝る前3時間は食べないという生活習慣も、この先の認知症リスクを減らすための適切な対策の一つなのです。
認知症の予防には、どんな方法を思いつきますか。クイズやパズルなど、いわゆる「脳トレ」よりも、より確実な効果があるのは食事の内容や食べ方を工夫することです。
特に、40代後半からは認知機能が徐々に低下していくという報告があります。MCI(軽度認知障害)にならないためには、食事の見直しは大変重要なポイントです。私もまもなく50歳になろうという年齢ですので、国内外で発表されるエビデンスを確認しながら自分の生活に積極的に取り入れ、その経験を日々の診療に生かしています。
12時間何も食べない「ファスティング」が有効なワケ
何を食べるかということも重要ですが、食べ方も意識する必要があります。たとえばオーガニックで健康によい食材を使ったとしても、それをどのように食べるかによって脳や体の反応は大きく変わってきます。特に、食べるタイミングは重要です。皆さんが普段食べているものが、「時計遺伝子」という生体リズムを調節している遺伝子の働きを変えてしまうことがあります。
たとえば、夜に甘いものを食べると太りやすいといったことは、皆さんも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。このように、いつ何を食べるかによって変化する生体の仕組みを研究する学問が「時間栄養学」です。
ちなみに、他にも「1日12〜16時間のファスティング(断食)がアンチエイジングによい」という話を聞いたことはありませんか? これは、空腹時間を長くとることによって、細胞中の老廃物などを分解する「オートファジー」という機能が働いたり、「サーチュイン」と呼ばれる「長寿遺伝子」が活性化するといった変化が起こるからです。
オートファジーと長寿遺伝子の活性化は、どちらも認知症の予防に有効であり、そのために一定以上の長さのファスティング、つまり空腹時間を確保することは重要です。
寝る前の3時間は食べないようにして眠りにつけば、7〜8時間眠るとして翌朝起きたときにはすでに10〜11時間もファスティングができています。起床後に水やお茶で水分を摂りつつ1〜2時間後に朝食をとれば、12時間程度の「食べない時間」が作れます。寝る前の3時間に食べないだけで、無理なく「脳のゴミを取り除く睡眠」「ファスティングによる体の若返り」につながっていくのです。