1991年にスタートした「イグノーベル賞」のモットーは「まずは人を笑わせ、その後、考えさせる」だ。毎年10部門の研究が受賞しており、日本人研究者の受賞も多い。サイエンスライターの五十嵐杏南さんがハトとバッタの能力に関する驚きの研究を紹介してくれた――。

※本稿は、五十嵐杏南『やってみた!研究 イグノーベル賞』(東京書店)の一部を再編集したものです。

ハトは絵画を見たら画家を見分けられる?

人は絵を見ると、絵の色使いや描かれているもの、絵筆の使い方の特徴などを手がかりにして、どの画家が描いたか当てることができる。

ハトには、どのように物が見えたり聞こえたりするか気になっていた研究者は、ハトも絵から画家が当てられるか調べることにした。

都会のハト
写真=iStock.com/Furtseff
※写真はイメージです

そこで、有名な画家のピカソとモネの絵を10枚ずつハトに見せ、どちらの絵か当てられるのか実験をした。

まず、実験の準備としてハトを2グループに分けてトレーニングを行った。片方はピカソの絵が映されたときにスクリーンをつつくとエサがもらえ、モネだともらえない。

もう一方は反対に、モネの絵だとエサがもらえ、ピカソだともらえない。そうやって20日間トレーニングを続けると、ハトは10回中9回正しく絵を見分けられるようになった。

実験では、ハトをスクリーンが入っている箱の中に入れ、ピカソまたはモネの絵をスクリーンに30秒間映した。トレーニングをした絵で、白黒にした絵、ぼかした絵、左右・上下を逆にした絵を見せた。また、ハトがそれまで見たことのないピカソとモネの絵も見せ、4パターンを調べた。

その結果、絵を白黒にしても、ぼかしても、ハトが画家を当てることができるとわかった。左右・上下を逆にすると、モネの絵は見分けられなかったが、ピカソの場合は見分けられるハトもいた。

また、それまで見たことのないピカソやモネの絵を見せても、ハトがどちらの画家か当てられたため、ハトは絵を暗記しているのではなく、ピカソとモネの絵の雰囲気のちがいを理解していると結論づけた。

この研究の後、ハトが他の有名な画家のゴッホとシャガールの絵を見分けられるかも実験した。ハトと大学生に絵を見せた結果、ハトと大学生の絵から画家を見分ける力は同じくらいだとわかった。

また、絵の他にも、クラシック音楽の曲から作曲家を聞き分けられるか研究をした。ドイツの作曲家のバッハとオーストリアの作曲家シェーンベルクの音楽を何回も聞かせると、ハトは曲がどちらの作曲家のものか当てられるようになったという。

ハトはピカソとモネの絵を白黒でも初めて見た絵でも見分けることができた

※1995年 イグノーベル賞心理学賞 渡辺茂(慶応大学)ほか

▼ここがスゴイ‼
絵のちがいを見分ける力は人間特有のものだと思いがちですが、ハトも絵の画風や曲の作風のちがいに気づくことがわかり、この研究では、ハトの知られざる力が明らかになりました。みなさんもピカソやモネの絵を見る機会があれば、どんなちがいがあるのか注目してみてくださいね。