30年以上のイグノーベル賞の歴史の中で、短期間で2度(2008年、2010年)受賞した日本人がいる。現在、北海道大学電子科学研究所の中垣俊之教授。脳ミソも神経もない単細胞には実は驚きの知性があることを実験で証明した。その内容とは――。

※本稿は、五十嵐杏南『やってみた!研究 イグノーベル賞』(東京書店)の一部を再編集したものです。

単細胞の粘菌は、どこまでかしこく動けるの?

目に見えない小さな「粘菌」は、細胞が1つしかない単細胞の生き物で、その中には、モジホコリという種類のものがある。普段は2mm以下の大きさで、枯れ木の中や枯れ葉の下の土の中にいる。移動したいときには、体の一部をのばしたり縮めたりして、形を変える。

モジホコリはときどき、突然巨大化して、周囲が数cmのシート状になり、マヨネーズを薄くのばしたような姿に変身する。このとき、体の中ではたくさんの細い管が行き来するようになり、管の中を栄養や信号が流れる。

ある日本人の研究者は、モジホコリで実験をしていたときに、エサのオートミールを離れた2か所に置いた。すると、モジホコリは片方ずつ食べるのではなく、2か所で同時に食べられるように変身した。それぞれのエサの場所に体の大部分を置きつつ、太い管で間をつないだ姿になった。しかも、管はまっすぐにつながっていたので、いちばんムダのない長さだった。

モジホコリが迷路の中に太い管だけを残していく様子
出所=『やってみた!研究 イグノーベル賞』 (画像提供=北海道大学 中垣俊之さん)

この様子から、粘菌がどこまでかしこく変身できるのか気になり、もっと難しそうな状況で試してみることにした。研究者は、一辺4cmほどの四角い迷路を作って、次のような手順で実験をした。

①巨大化したモジホコリを小さく切り、迷路中にたくさん置く

②迷路のスタートとゴールにエサのオートミールを置く

③小さなモジホコリが広がりくっついて、迷路がモジホコリでうめつくされて合体し1匹の大きなモジホコリになるまで待つ

4時間おくと、次第に迷路のスタートとゴールを何とか管で結ぶ形に変身した。さらに時間が過ぎると、行き止まりの道を管が通らないように変身し、いちばん短い距離でスタートとゴールを結んだ。

研究者は、モジホコリが最短距離を見つけられたのは、たくさんの栄養を早くとりたいからだと考えている。その仕組みは、栄養がたくさん流れる管はどんどん太くなるが、栄養があまり流れない管はやせていき、消えていくからだという。

モジホコリは迷路を解き、入り口から出口の最短距離を見つけることができた

※2008年 認知科学賞 中垣俊之(北海道大学)ほか

▼ここがスゴイ‼️
いわゆる「頭がいい」生き物というと、人間や霊長類、ゾウやイルカの話がよく出てきますが、目に見えない粘菌もある意味かしこいんです! 物事を深く考えない人のことを「単細胞」と呼んでからかうことがありますが、単細胞の生き物、あなどるべからず。